takibi connect
羽幌町

島の絆が守りつなぐ「焼尻めん羊まつり」

takibi connect

島の絆が守りつなぐ「焼尻めん羊まつり」

羽幌町プロジェクト

文:三川璃子 写真:原田啓介

北海道羽幌町の離島・焼尻島で1982年から開催されてきた「焼尻めん羊まつり」。40年以上続くおまつりは、島を想う人々によって支えられてきました。
 
年々人手不足が深刻化する、まつりの運営。コロナ禍では中止を余儀なくされました。島でのめん羊飼育は、餌の仕入れや肉の輸送に大きなコストが。
それでも「焼尻島のサフォーク羊のおいしさをもっと知ってほしい」という人々の強い思いが、この文化を守り続けています。

島内外の人が支える焼尻めん羊まつり

羽幌から高速船に乗ること30分。港に降り立つとすぐ目の前に、焼尻めん羊まつりの会場が。焼き台が並び、朝からジンギスカンを楽しむ人々であふれていました。2年ぶりの開催となった2025年は、町外から訪れる人も多く、ここでしか味わえないサフォークの羊肉を心待ちにしていた様子がうかがえます。
 
「焼尻めん羊まつり」のあゆみについて、実行委員長を務める石川みゆきさんにお話をうかがいました。

ーー焼尻めん羊まつりの歴史を教えてください。
 
石川:めん羊まつりはかれこれ40年以上開催してきた、島をあげてのまつりです。かつては歌手のステージやカラオケ大会、羊レースなんかもあったんですよ。今は焼き台を並べて、みんなで島のサフォークを味わうイベントになっていますね。
 
ここ2年はコロナの影響やめん羊牧場の一時閉鎖で、開催を見合わせましたが、今日は天気にも恵まれて。こうして開催できて本当にうれしいですね。

――石川さんが実行委員長になられたきっかけは?

石川:私が実行委員長になったのは5年ほど前です。年々島民が減って、これまで運営母体だった焼尻観光協会だけでは、継続が難しくなってしまったんです。

「まつりをなんとか存続させたい」「島のおいしい肉をたくさんの人に楽しんでもらいたい」と、実行委員に手を挙げました。

でも私1人では限界があるから、漁協や役場の人、学校の先生、警察官や消防職員・・いろいろな人に協力をお願いしました。

昔は島の人間だけで運営できましたが、今は島民の大半が高齢者。とてもじゃないけど、人手が足りません。羽幌町役場からもたくさんの職員さんが、ボランティアで応援に来てくれて、本当に心強いですし、頭が上がらないですね。

羽幌町役場のみなさん
羽幌町役場のみなさん

「私は名ばかりの代表ですよ」と笑う石川さん。「人手不足」という課題を抱えながらも、島を想う人たちの協力によって、まつりは支えられています。

石川:前日、当日の準備はてんてこ舞いですよ。

昨日は炎天下で13時から設営をはじめて、17時までかかりました。今朝も4時半から肉の解凍や切り分けの準備をして。人手不足で、みんなに負担がかかっているなと感じますね。ゴミの仕分けひとつとっても、仕事が追いつかなくなって。

こういう状況の中でも、役場の方が「大丈夫だよ、心配ないよ」って声をかけてくれたり、「島が好きだから」って、手伝いに来てくれる人がいるんです。運営を支えてくれる人たち、まつりに足を運んでくれる人たちの気持ちが、何よりありがたいですね。

羽幌を盛り上げるため、まつり継続への希望をつなぐ

過去にはフェリーの欠航により、せっかく用意した肉が余ってしまうなど、紆余曲折を乗り越えてきためん羊まつり近年はコロナ禍やめん羊牧場の一時閉鎖などで中止を余儀なくされながらも、まつり継続のため、試行錯誤を重ねています。

石川:牧場が民間経営になり、羊の出産時期が変わったんですね。

ラム肉(生後1年未満)の提供が難しくなったことから、「ホゲット」といって、生後1年から2年未満の羊肉、ラムとマトンの中間の肉を使うことになりました。

試食してみたら、ホゲットがとってもおいしくて!

私の食堂でもホゲットを出してみたら、お客さんから「ラムよりも味が濃くておいしい」という声をいただいて。まつりでも提供することにしました。

石川:羽幌の観光を盛り上げるためにも、焼尻めん羊まつりは続けるべきだと思うんです。天売島のウニまつりも、羽幌のえびまつりも、資源不足で中止になっています。

焼尻めん羊まつりは、民間に経営が変わっても牧場が頑張ってくれているおかげで、なんとか続けていけるという希望があります。

年に一度、焼尻のおいしいサフォークを島内外の人に味わって喜んでもらう。それで十分なんです。

私たちも協力しながら、町にも働きかけながら、まつりを守っていきたい。

関わるみんなが前向きに「来年もやろう!」と言ってくれる。その気持ちがある限り、なんとか続けていこうと思います。

石川さんたち実行委員が用意した焼尻サフォークは、一つひとつ丁寧に手切りされたもの。「筋も全部取っているから、口に入れた時の柔らかさは段違いですよ」と語ります。

取材班も焼き台を確保して、待望のサフォークをいただきました。「ホゲット」の肉は、言葉通り柔らかくて濃厚。旨味と甘みをたっぷり含んだ脂の美味しさに、思わず顔がほころびました。

このおいしいサフォークを手がける、株式会社焼尻めん羊牧場にもうかがいました。

先人たちが受け継いだ焼尻サフォークを守る

株式会社焼尻めん羊牧場は、2024年に羽幌町から事業承継しサフォーク羊の飼育を担っています。運営を支えているのは、漁師から牧場長へと転身した異色の経歴を持つ、村井清人さんです。まずは焼尻島のサフォーク羊についてうかがいました。

ーーサフォークは食べられる機会の少ない貴重な品種ですよね。

村井:羊の中でも一番飼育の難しい品種が、サフォークなんですよね。病気になりやすく繊細な気質。牧草に潜むセンチュウの被害で、突然死んでしまうこともあります。移動させながら放牧したり、飼育に気を配る必要があるんですよ。

ーー飼育に手間暇がかかるんですね。焼尻島で育つサフォーク羊のおいしさの秘訣はなんでしょうか?

村井:「潮風を浴びたミネラル豊富な牧草を食べて育つので、おいしい」と昔から言われますが、一番の秘訣はストレスフリーな環境でのびのび育つことかなって思います。

焼尻には羊の天敵がほとんどいないんです。猫やイタチはいますけど、大きな被害を与えるほどではありません。

ーー町営だった焼尻めん羊牧場が閉鎖され、事業承継した背景は?

村井:「焼尻めん羊牧場」は、1986年にサフォーク種純潔生産基地※北海道第1号の指定を受けた、伝統ある牧場なんです。ここで飼育・繁殖されたサフォーク種が、全国に供給されています。

「何十年にも渡って受け継がれてきた牧場を守りたい」「羽幌の観光資源である羊を守りたい」という、弊社社長・東郷の熱い想いから承継に至りました。

北海道の「食の遺産」であるジンギスカンを守っていくためにも続けるべき、という考えもあったようです。

※サフォーク種純潔生産基地とは、良質なサフォーク種の羊の種畜(繁殖用または品種改良のために飼育される家畜)を供給する拠点のこと。

ーー村井さんはどういった経緯で漁師から牧場長に? かなり覚悟が必要だったのではと想像します。

村井:町営だった頃に、羽幌町の職員から「ちょっと手伝って」と声をかけられたのがきっかけです。

事業承継のタイミングで、社長の東郷に「牧場を任せられる人がいないと始められない」と言われて。「じゃあ、一緒にやろうか」と。

日々、必死に勉強しながら羊と向き合っていますよ。

苦労をいとわず追求する焼尻サフォーク本来の味

「牧場長としてはまだ実質2年生」という村井さん。事業承継後は販売先の確保やサフォークの品質改良など苦労も多かったそう。

村井:当初は販路が一つもなかったんです。販売のブランクは1年半ぐらいあったかな。「もう無理なんじゃないか」と不安を抱えていた時に、札幌のジンギスカン店「炭火兜ひつじ」から、注文が舞い込んだんです。

そこから徐々に取引先が広がり、今では札幌の三つ星レストラン「モリエール」など、フレンチ・シェフからも好評をいただいています。

試食していただいたら「以前よりいいね」という言葉もいただいて。

ーー何か味の変化を目指したのですか?

村井:取引先にヒアリングする中で、インパクトのある味で他との違いを出さなきゃダメだと気づいたんです。

サフォーク本来の“独特な旨みのある味わい”を模索していた時に、“羊の大先生”と呼ばれるコンサルタントの方が、「焼尻をなんとかしたい」と協力してくださって。栄養バランスにも考慮した、大麦・ビートパルプ・大豆・ふすまなどを組み合わせた配合飼料にたどり着きました。

まだまだ改良中ですが、めん羊まつりで提供していた「ホゲット」も好評です。
 
ーーめん羊まつり実行委員長の石川さんから「羊の出産の時期が変わった」というお話を聞きました。何か理由があったのでしょうか?

村井:これまでは8月から種付けをして、12月末から3月にかけてが出産時期だったんです。ちょうど極寒の時期で、子どもを産ませるには大きなリスクを伴いました。

その一方で、出産時期の変更によって出荷時期が遅くなり、運搬に必要なフェリーの便数減少や欠航というリスクも抱えていました。

フェリーに合わせるよりも、出産時のリスクを極力減らしたい。

それなら通年で出荷する体制にしようと、思い切って舵を切りました。

ーー出産時期を変えるのは大変そうですね。

村井:そうですね。1年目は出荷ができる状態まで生育させられなかった。

収入もゼロ。本当に苦労しましたね。

飼料代も町営時代の倍近くになりましたし。最初の1年は出産時期も変えて、餌の配分も変えて、走りながら勉強しながら・・過ぎていきましたね。

「ホゲット」も、そうした試行錯誤の中で行き着いた出荷形態なんです。

ーーたくさんの苦労を乗り越えてきたのですね。最後に村井さんが感じる、焼尻めん羊牧場で働く楽しさを教えてください。

村井:自分が頑張れば頑張るほど、羊も変わっていくんです。取引先やお客さんからの「おいしいね」の言葉が、やっぱり何より嬉しい。それが楽しさかな。

最近は全国から働きに来てくれる若者もいます。よく頑張ってくれるしね。やる気あるメンバーと、この牧場を守っていける嬉しさ、楽しさもありますよ。

焼尻島を訪れた日は、青い空と海に囲まれた絶好のおまつり日和でした。島の人々の笑顔と活気に包まれ、初めて訪れた私でさえ懐かしく温かい気持ちになりました。

「焼尻のサフォークを次世代に残したい」という想いで結ばれた島の人々。40年以上続くおいしい文化が、これからも力強く受け継がれていくことを願います。

羽幌町よりご案内

【ふるさと納税・選べる使いみち】

羽幌町では、ふるさと納税寄附金を4つの使い道から、寄附申出の際に選択することができます。使いみちのひとつとして、「天売島・焼尻島の振興のための事業」への項目もあります。

◆天売島・焼尻島の振興のための事業

天売島の海鳥保護や焼尻島の自然環境保全、観光イベントの開催などの離島振興のための取組みに活用します。

その他、3つの使いみちや事業実施報告もぜひご覧ください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加