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命をいただくからこそ、不自由な思いはさせない。鈴木畜産が手塩にかける石川はちみつ牛

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命をいただくからこそ、不自由な思いはさせない。鈴木畜産が手塩にかける石川はちみつ牛

石川町事業者の想い

文:高木真矢子  写真:平塚実里

阿武隈高地に連なる山間地の雄大な自然に囲まれた福島県石川町。
山あいに位置する鈴木畜産では、石川町産のハチミツや自家配合飼料を与えられた牛たちがのびのびと育てられています。「石川はちみつ牛」として人々を魅了する牛肉は、肉質が甘くコクのある脂が特徴です。
 
「命をいただくからこそ、牛たちに不自由な思いはさせない」という強い信念を持ち、日々牛に向き合う鈴木畜産。生まれも育ちも石川町という3代目社長の鈴木智巳さんと、妻の佳子さんをたずねました。

限りなく自然に近い環境で牛を育てる、鈴木畜産の哲学

心が洗われるような緑を望む県道14号線沿いに、牛のオブジェが載った「鈴木畜産」の看板が。コンテナハウス型の店舗は、黒をベースに白字のブランドロゴが映え、目を引きます。店内には石川町の豊かな自然を表現するかのように、福島県産の杉を使用したあたたかみのあるレジ台や、稲で囲んだ商品ディスプレイ​​が美しく並んでいました。
 
1935(昭和10)年に牛の仲介業として始まったという鈴木畜産。父・崇義さんが牛の肥育を始め、1998(平成10)年に法人化しました。同時にブランド牛を生み出すための試行錯誤もはじめ、2010年に誕生したのが「石川はちみつ牛」です。

ーーまずは鈴木畜産独自のブランド牛である「石川はちみつ牛」について教えてください。
 
智巳:「石川はちみつ牛」はハチミツなどを与え、自然豊かな環境で育てた黒毛和牛です。きめ細やかな肉質と、まろやかな脂の甘み、豊かな風味が特徴です。
 
ーーなぜハチミツを与えようと思ったのでしょうか?
 
智巳:うちで育てている牛は、北海道や岩手から輸送されて来ます。ドライバーさんの休憩時間なども含め、約15時間もかけて移動してくるんです。
 
ーー人間でも相当なストレスになりますね。
 
智巳:ええ。私たち肥育農家にとって、最優先事項は「牛の健康を整える」こと。約20ヶ月という限られた期間の中で、牛たちの成長を見守ります。
約15時間トラックに乗せられてくる仔牛にとって、ストレスフリーな環境を考えた時に「何ができるだろうか?」というところからの着想です。
 
これまでにも、ブドウ糖や納豆菌、ワインかす、ビールかすなど、発酵食品や健康に良いと言われる食品などを試しました。試行錯誤の末、抗酸化作用でストレスが軽減され、殺菌作用によって免疫力の向上が期待できるハチミツにたどり着きました。
 
ーーハチミツはどんなタイミングで与えているんですか?
 
智巳:まずは、輸送されて到着した直後です。ホテルのウェルカムドリンクのようなイメージで、まずは長旅の疲労回復のために、ハチミツにビタミン剤を加えたオリジナルドリンクを飲ませています。

智巳:父の代から「人の都合で牛の命の期限を決めている。命をいただくからこそ、うちにいる間は牛たちに不自由な思いはさせない」という信念をもって、鈴木畜産では牛を育てています。そして、「生き物の命をいただくからこそ、おいしく、残さず食べてほしい」。そのためにコストは度外視して、牛に与える飼料には徹底的にこだわっています。

佳子:水も石川町の天然水を用い、ハチミツは町内産の「81do」を与えています。「81do」は糖度81度の天然ハチミツで、遠心分離機などの器具を使用せず、完熟蜜を自然な重力で落とし、蜜をフィルターで濾したものです。いわゆるB品などではなく、人が口にする商品と同品質のものを与えています。
 
智巳:ハチミツだけでなく、ミネラル補給のための岩塩を牛舎に置いたり、独自の配合飼料には漢方を混ぜています。さらに従業員が交代で1日4回の巡回を行うなど、小さな変化も見逃さないよう気を配っています。

ロゴには「牛にひと手間かける」という意味を込めて一本線を足し、ハチミツの「ハチ」もかけたデザインになっている。
ロゴには「牛にひと手間かける」という意味を込めて一本線を足し、ハチミツの「ハチ」もかけたデザインになっている。
ロゴの説明をする智巳さんと佳子さん
ロゴの説明をする智巳さんと佳子さん

石川町だからこその環境づくり

石川町について「楽しもうと思えば、いくらでも楽しめるまち」と笑顔で話すお二人。
鈴木畜産のこだわりは飼料だけにとどまらず、自然豊かな石川町だからこその環境を活かした牛舎にもあります。現在20棟ある牛舎は、肥育を決めた法人化のタイミングで、店舗兼オフィスの近くにある山の頂上付近に構えました。
 
智巳:道路沿いの牛舎では、車やバイク、緊急車両などの騒音ストレスに牛が晒されてしまいます。山間部に牛舎をおくことで、静かでストレスフリーな環境にできるだけでなく、気温も2度ほど低いので、暑さ対策にもなります。
 
ーーストレスフリーな環境づくりとして、ほかにはどんな設備がありますか?
 
智巳:牛を飼うスペースを「マス」というんですが、通常4頭飼えるマスをうちでは2頭で使っています。壁もなくし、風通しの良い開放的な状態に。こうすることで、風邪を引いた場合にも、感染が拡大することは少ないんです。
圧迫感を感じさせないように、屋根も高く設計されています。通気性の良さに加えて、大型扇風機を設置することで、肥育で課題となる暑さもクリアしています。

東日本大震災での風評被害から事業の多角化へ

はちみつ牛が誕生した翌年の2011年3月以降、石川町がある福島県は東日本大震災による風評被害により、全体に暗いムードが漂っていました。
ブランド牛が販売しにくくなったこともあり、鈴木畜産でも「石川はちみつ牛」の販売を一時中断。通常の和牛の肥育のみにとどめていました。
しかし、「風評被害もいつかは終わる」と信じた鈴木さん親子。大幅に値下がりした牛の仕入れ価格を好機と捉え、牛の買い付けを増やし、時が来るのを待ちました。

2015年「がんばろう福島」をキャッチコピーに、前を向き始めた地域の中で、鈴木畜産ではブランディングを強化。認知拡大のため、ブランドに合わせたロゴマークやパッケージデザインを一新。HP制作やECにも取り組みました。
2017年には智巳さんの事業継承とともに「石川はちみつ牛」の販売を再開。
翌2018年には、肉の卸売会社での経験を活かし、加工品の開発・販売に取り組みをスタートしました。
 
智巳:「はちみつ牛」の販売再開と並行して、月2回の問屋とのやりとりから、新たなアイデアが浮かんできました。牛肉には、いわゆる「端っこ」の部位が出てしまうんです。この部分を加工品にしてはどうだろう?と。問屋としても、一頭買った牛から出る“売りにくい部位”をうちが加工用に買い取ればロスがない。私たちとしても、加工することによって、手間ひまかけて育てた牛を無駄にせずに済みます。
 
智巳さんは、有名飲食店に幾度となく足を運び、さまざまな調理方法や調味料をリサーチ。肉の品質に自信があったからこそ、シンプルな味付けで肉本来のおいしさが味わえる加工品を目指したといいます。
同年、「塩で食べる黒毛和牛ハンバーグ」と「山葵で食べる黒毛和牛ローストビーフ」が完成しました。

智巳:加工品の完成後、「地方銀行フードセレクション」という商談会にエントリーしたところ、都内デパートや高級スーパーから取引依頼が相次ぎました。製造が追いつかず、予約がすぐに埋まってしまうことも。今でも1ロット1,000個で製造していますが、予約待ちになることもあります。
 
HPやECサイトの開設と並行しイベント出店なども行い、積極的に「石川はちみつ牛」をPR。HP開設から5年で、売上は2~3倍に上昇したといいます。
 
佳子:早い段階からECに取り組んでいたこともあり、コロナ禍での巣篭もり需要にも対応することができました。一定の認知があったおかげで、2022年に結婚当初からの夢だった店舗兼オフィスをオープンすることもできました。自販機も設置して、土日祝日や夕方以降など、いつでも商品が手にとってもらえるようにしています。

ハニーサイクルで、持続可能な環境を追求したい

鈴木畜産では石川はちみつ牛の熟成堆肥を使った、持続可能な循環型農業にも取り組んでいます。石川はちみつ牛堆肥は土に馴染みやすく、作物が病気になりにくいという特徴があることから磐梯山の麓・福島県会津若松地方で育てたコシヒカリ「ハニーライス」に活用。その籾殻を牛の寝床に再利用する一連の流れを「ハニーサイクル」と命名し、堆肥・米・籾殻を循環させています。
 
さらに熟成堆肥の新たな活用法として、サツマイモなど野菜向けの堆肥としての使用にもチャレンジしています。
2023年5月には、三春町BRITOMART内のグリーンショップ「SPROUT」とコラボ。石川はちみつ牛の熟成堆肥を使ったコンテナファームづくりのワークショップ「花育」などのイベントも開催し、持続可能な環境づくりへの取り組みを広めています。
 
佳子:土づくりには、一般的に牛ふん堆肥を熟成した物が向いていると言われています。中でも、石川はちみつ牛の熟成堆肥は1年かけてじっくり熟成していることから、ふわふわでサラサラ、匂いもなく、土に馴染みやすいという特徴があります。育てる野菜の組み合わせや堆肥の配合比率など、試行錯誤が続いています。
 
鈴木畜産では、SNSなども活用して「命をいただく」という観点での食べ物へのありがたみを伝え続けています。
地域の子どもたちに向けても、地元の牛肉への愛着を持ってもらうための発信や食育など、肥育事業以外にも力を注ぎます。
 
ーー最後に、石川町への思いを教えてください。
 
佳子:私たちは夫婦でともに石川町に生まれ育ってきました。石川町は桜の美しい、自然の豊かなまちです。10年先、30年先、その先も・・石川町がさくら色に染まるように、今できる事を考え、行動する時だと考えています。「はちみつ牛」はもちろん、農業と接する体験を通した「石川はちみつ牛堆肥」の魅力を知っていただく機会をつくっていきたいです。いずれは庭の花壇や家庭菜園など、身近な場所で堆肥が使われるようになればいいなと思っています。
 
智巳:この地を離れようとか、家業を継がないという選択肢は一度もありませんでした。これからも、牛と向き合いながら、循環型モデルの構想も進め、地域とともに進んで行きたいです。

取材後、店の壁に記された牛のシルエットと、その下に記された「about250」の文字について伺いました。年間で出荷している頭数「約250頭」の意味を込めたデザインとのこと。
 
鈴木畜産では、「命をいただくこと」を忘れずに、今日も手間ひまをかけながら、一頭一頭の牛に向き合い続けています。
今後も、持続可能な環境づくりへの取り組みとともに、「石川はちみつ牛」は地域を代表する名物としてさらに輝きを増していきます。

会社・店舗情報

有限会社鈴木畜産
〒963-7804
福島県石川郡石川町大字坂路馬場宿43-1
  電話 0247-57-5643
営業時間 10:00~17:00
 定休日 土日祝(その他、臨時休業となる場合有り)
年間休日 年末年始(12月30日~1月9日)

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