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概念が変わる生そうめん 岩見沢「めんめん。」が切り開く道なき道

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概念が変わる生そうめん 岩見沢「めんめん。」が切り開く道なき道

岩見沢市事業者の想い

文:浅利 遥 写真:斉藤 玲子

北海道岩見沢市に生そうめんあり。「そうだ、今日は生そうめんにしよう」そんな会話が日常で溢れる時代が来ることを夢見て、生そうめんの普及に闘志を燃やす「めんめん。」店主の川口義行さん。生麺ならではのもっちり弾力のある食感と道産小麦の豊かな風味に、そうめんの概念が変わります。未だなき道を切り開いていく川口さんの根っこには、どんな熱い想いが灯されているのでしょうか。

生麺で味わうそうめんの美味しさを届けたい

2011年に創業した元祖生そうめん「めんめん。」。2022年5月から始まる繁忙期以降、例年にないほどの人気ぶりで、営業時間内に完売してしまう日もあるんだとか。「店に『何人来てもらえるか』より『何人分できるだろうか』と心配するようになったもんね」と話す川口さん。

お客さんが集まるようになった背景には、「いっぺん、食べてみ!」というお客さんの評判がきっかけとなっているそうです。

ーー評判を聞きつけて「一度はたべてみたい」と興味を抱くほどの生そうめんとはどんな特徴があるのでしょう?

川口
:今まで食べたことがないようなそうめんの香りと食感。そうめんの概念が変わるよ。
誰もが知ってるそうめんって、ほとんどが乾麺。乾麺の原材料には、油を使っているところが多いんだけど、生そうめんは油を使わないから、小麦の香りが立つんだよ。

麺の原料となる小麦は、北海道岩見沢産の小麦をブレンドしている。
麺の原料となる小麦は、北海道岩見沢産の小麦をブレンドしている。

それと、食感。なんというか・・表現が難しいよね。みなさんシンプルに「コシがありますね」と言ってくれるけど、ひと言で言い切れるものでもなくて。
おそらくね、食べた人もうまく表現できていないと思う。だから「とにかく、いっぺん食べてみ」って評判が伝わっていく。身体で感じるもの、要は人間の脳で感じるものって、言葉で表現できないこともあるってことなんじゃないかな。

ーー言葉に表せないものをつくるって素敵ですね。

川口:そうそう。だからね、自分がお客さんの立場でも細かいことは言わず、「いっぺん、食べてみろよ。美味しいんだ」って言うね。笑 しかも、単品で800円くらい。生そうめんは誰もが気軽に食べやすくて、他のそうめんとは違う感動を味わえる商品じゃないかなって感じてる。

最初からそういう商品になるって狙ったわけではないけど、開業から11年経過して、「本当に美味しかった、期待以上でした」っていうお客さんの反応が多いの。まだ生そうめんに出会ったことがない人もいると思うから、多くの人に教えてあげたいね。

ーー麺もそうですが、つゆにもこだわりが?

川口
:持ち帰り用そうめんのつゆは、利尻昆布、鮭節、ごまだれの3種類。まだ店舗営業しかやってなかった頃、北海道の食品メーカーの人が「他にはない美味しさだから、持ち帰り用で販売できたら全国から注文くるようになると思うよ」って言って、小袋のつゆを持ってきてくれたの。

利尻昆布はあっさりしていて、鮭節はキリッとした甘みがある。鰹節の旨味成分が入っているから、味わい深い仕上がりになってるんだよね。ごまだれに関しては、そうめんにごまって意外でしょ?だけど、ごま好きな人はそれしか食べないほど、知る人ぞ知る商品だね。

ふとした問いから始まった、生麺への挑戦

生麺ならではのそうめんの美味しさに舌を唸らせた人々の輪は広がり、徐々に生そうめんの存在が知れ渡るようになりました。ですが、そうめんの概念が変わるほどの味に辿り着くまでには、険しい道のりもあったそうです。

ーーそもそも、生そうめんに着目されたきっかけは?

川口
:もともと、そうめんが好きでよく夜食に食べてたんだけど、物足りない感じがしてね。「何に納得がいかないんだ?」って色々考えて、麺に満足してないことに気づいたの。そばとかラーメン、パスタって生麺はあるけど、そうめんはどうなんだろうって調べたら生麺がないのよ。全国のいろんな製麺屋に電話して尋ねてみたけど、みんな乾麺だった。

そして何十件か尋ねたうち、ある製麺会社の工場長さんから「なんでそんなこと聞くの?」って聞かれてね。「そうめんが好きで食べてるけど、なにか物足りないんですよ。そうめんも生があったら美味しいんじゃないかと思ったんですよね。」って話をしたら、「すごいところに着目するね」って言われて。
「実は、日本にはいろんな麺があるなかで、何よりも日本人にあう麺が生のそうめんなんです。だけど、日持ちしないから商売にならないのよ。」って工場長自らが教えてくれたのさ。それが生そうめんを始めるきっかけにもなったよね。

ーー未だなきものに挑むことへの不安はなかったですか?

川口
:当時はワクワク感もあったけど、不安もあったよ。本当にお客さんは来るのか。自分は大きな間違いを犯しているんじゃないかって。

もともとは会社の役員をしていて、麺を細く切る技術もなければ、そうめんを本格的に作った経験もなかった。どうしようと思ってたけど、地元の麺屋に頼んでみたら岩見沢産の小麦にこだわった生麺を作ってもらえて、それが非常に良かった。

開店当初は「そんなもの売れないぞ」って言われたこともあったし、みんなの言う通り、売れなかったよ。お客さんが多い日で15人、少ない日で1桁台っていうのがずっと続いてたから。最初から華やかだったわけじゃないけど、本当に苦しい時代があったからこそ、応援してくれる人も現れたんだと思う。

ーー生そうめんをつくるなかで、地元で生まれた岩見沢の小麦への思いもありましたか?

川口
:実はね。今から10年以上も前のことなんだけど、農業を営んでいる人が経営に追い込まれて、自らこの世を去ってしまった人が何人かいたんだ。なんというか、悲しいというか、悔しいっていうか。

日本の食を支えている農家の人たちが、追い込まれる状況はおかしいよね。そういう思いもあって、生そうめんに着目した時は、小麦農家に知り合いがいたので、少しでも力になりたかった。そういう繋がりもあって、岩見沢産にこだわろうと。

地獄をみてもやり続ける。生そうめんに灯す熱意

ーー生そうめんを作り続ける中で、特にしんどかった時は?

川口
:やっぱり立ち上げの時かな。貯金も全部この店に注ぎ込んで、すっからかんになった。さぁどうするもなにも、やるしかねぇんだって状況で、生計を立てていくのに大変だった。

川口:すっごい悔しいこともあってさ。

店が暇だった時、車で店の方に向かってくるお客さんがいたんだけど、「生そうめん」って看板をみて、違う店に入っていったんだよね。自分が食べたことのないものとか、知らないものって否定しがちになっちゃうんだわ。
「今に見てろ、食べたくても食べられなくなる時代がくることを見せつけてやる!」って思ったね。ただ、本当に意地で。俺はやんちゃなんだよね。笑

ただね、少ないお客さんの数でも生そうめんの良さに気づいてくれる方はいて、ある人から「この店は間違いない。ただご主人の資金力とこのお店の状況が、分かれ道ですね」って言われたの。つまり、当時はまだ生そうめんが認知されていない中で、何年我慢できるんですかって話さ。

そのことは、俺も分かっていたさ。普通だったら諦めたと思う。でも、「地獄を見ても、何がなんでもやり続ける。お客さんを驚かせて、また来たいと思わせてやる」って、そう思いながら続けてきたよね。

ーーまだ誰も挑んだことがない生そうめんだからこそ本気になれたんですね。

川口
:そうそう。他の麺でやろうという気はさらさらないわけで。未だなき道を自分が切り開いていく。その道は素晴らしく明るくて、花畑がいっぱいある道をいつの日か歩くんだよ。そんなことを当時から夢みて、必ず実現するって思ってる。

ーー苦しい状況を乗り越える転機となったことはありましたか?

川口
:今でこそ、お客さんの口コミとか、毎年取材で来てくれるメディアのおかげで賑わうようになったけど、一番最初のきっかけは、俳優の大泉洋さんが映画の撮影期間中に食べに来て下さったんだよね。

帰り際に「美味しかったです。また近いうちにお会いしたいですね」って言って下さったの。撮影期間中に時間が合えばまた来るってことかと思ったら、後日番組スタッフから電話があって、番組の取材依頼だった。近いうち会いましょうって、そういう意味だったんだよね。

その番組が放送されてから、知名度が一気に上がった。それが、店を始めて3年目のとき。お客さんが少なかった状況を変えてくれたのは、最初に店を紹介してくれた洋さんのおかげ。その恩は忘れないよ。

生涯を懸けて夢見る、生そうめんの栄光への道

「地獄を見ても挑み続ける」と並々ならぬ想いで苦境を乗り越えてきた川口さんが抱く夢とは。未だなき道を切り開いていく中で、川口さんが描く「花畑がいっぱいある道」とはどんなものなのでしょうか。

ーー創業から11年目を迎えて、花畑ロードは見えていますか?

川口
:まだまだ、咲いてもないね。最終的には、全国で生そうめんが普通に食べられる時代が来るまで、俺は死ねないよ。笑

今はホラ吹きみたいに聞こえるかもしれないけど、必ず実現できると信じてる。店を始めた時も、そうやって大袈裟に喋ってた。「『岩見沢にめんめんあり』って生そうめんを食べに足を運んでくれる時代が来る」ってね。本当に今、そうなりつつある。だから、次は誰もが「今日は生そうめんにしよっか」っていう時代になることを信じて、生涯懸けて生そうめんと向き合いたい。

ーーその夢を実現させるために、大切にしていることはありますか?

川口
:どんなに忙しくても、妥協しないこと。人間っておもしろいくらい、みんな違うよね。ということは、お客さんひとりひとりが生そうめんに対して、何かしら期待してくれてる。その期待を裏切るようなことは絶対しない。自分たちがもつ能力の最高のものを商品を提供するっていうこと。

うちの家内とお互いに気をつけていることなんだわ。例えば、麺の茹で時間とか、店で出してる親子丼をたったの数秒長く火にかけすぎてしまってもやり直し。「こんなもんだろう」と手を抜かずに、一つ一つのメニューに対して、真剣に取り組んでいることが評価に繋がっている。

いつ誰がどういう状況で来ても、必ず満足させてやるぞっていう思いで、いつもお客さんとの勝負。そうやって貫いていくことで、必ず夢は実現すると思っているのさ。

ーーお話を伺っていると、叶わない夢はないと背中を押されているような感じがします。

川口
:昔、ある人から言われて納得したんだ。「人間ってのは自分がなれないものは望まない。でも、お前は生そうめんを全国に広めたいって思ってるんだろ?本当に思ってるならなれる」って。

本当に実現できることにしか人は夢を抱かないんだと思う。これからも描いた未来に向かって突き進んでいきたいね。

取材後、持ち帰り用にいただいた生そうめんを初体験。
そうめんといえば、ツルッとのどごしが良いイメージですが、もっちり歯ごたえのある生麺の新しい食感に、「こんな味わいも表現できるんだ」と、そうめんの奥深さにしばらく浸ってしまいました。

終始生そうめんへの熱意を感じる取材でしたが、「正直、年もとってきて体力が厳しくなってきている」と本音を語ってくれた一面も。川口さんの眼差しからは、花畑へと繋がる未来のために、1日1日を大切にしながら日進月歩していく姿勢が感じられました。

店舗情報

元祖生そうめん めんめん。
〒068-0030
北海道岩見沢市10条西18丁目8-1

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