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真狩村

おいしくてかっこいい。ベジタブルワークスが切り開く新しい農業のカタチ

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おいしくてかっこいい。ベジタブルワークスが切り開く新しい農業のカタチ

真狩村事業者の想い

文:髙橋さやか 写真:高橋洋平

壮麗にそびえる羊蹄山、その南麓に広がる真狩村。「カムイワッカ=神の水」とよばれる清らかな水と肥沃な大地に育まれたこの村で、土地の恵みを生かした野菜をつくり全国へと届ける農園があります。ベジタブルワークス株式会社。
特別栽培農産物を生産する農園としては、国内でも有数の規模をほこり、農地面積は東京ドーム約21個分。約60名のスタッフとともに新鮮でおいしい野菜を届ける、代表取締役の佐々木伸さんにお話をうかがいました。

フィットする方法で野菜のおいしさを最大限に

ベジタブルワークスが大切にしているのは、“できるだけ農薬を使わない野菜づくり”。現在は、にんじん、グリーンアスパラ、ブロッコリー、とうもろこし、さつまいもという厳選した5種類の野菜を生産しています。昼夜の寒暖差が大きい真狩村で、野菜たちは夜にしっかりと体を休め、甘味を蓄えてぐんと大きく育ちます。

ーー取材前に道の駅でにんじんジュースを飲んだら、甘みがあってすごくおいしかったです。

佐々木:ありがとうございます。実は農家あるあるなんですけど、僕自身がにんじん嫌いで。笑 「なるべく飲みやすく」を意識してつくりました。

佐々木:ただ、最近気づいたんですけど、にんじん嫌いな人ってにんじんジュースに手が伸びないんだよね。だから、今度は「にんじんが本当に好きな人のためのジュース」をつくろうかなって思ってます。イメージとしては、“まるで、にんじんを食べているかのような感覚”を味わえるジュース。余計なものは一切加えず、スムージーのように、素材本来のナチュラルな味わいが感じられるものをつくれたら、と最近構想しています。

レトルトのとうもろこしなど、ベジタブルワークスでつくっている他の加工品にも、ナチュラルなものづくりを展開していきたいですね。

ーーベジタブルワークスでは、“できるだけ農薬を使わない野菜づくり”をされていますが、ホームページに「必要最低限の農薬は使います」と書かれているのが潔いなと感じました。

佐々木:「安全安心」って口で言うだけじゃ、信憑性がないんですよね。
無農薬・無化学肥料で生産可能な農作物もあれば、どうしても農薬や化学肥料を使わなければうまく育たない農作物も存在します。人が風邪を引いたりするように、野菜たちも病気になるんですよね。 畑の野菜は、一度病気になってしまうとひどい時には、畑全面が腐ってしまう時もあります。

ベジタブルワークスでは、「特別栽培農産物※に係る表示ガイドライン」に基づいて野菜を生産しています。しっかり検査も受けて、できる限りの「安全安心」を証明していく。「必要最低限の農薬や化学肥料は使います」という姿勢を知った上で、買ってくれるお客さんがいるのは、僕たちにとってすごくありがたいこと。

※特別栽培農産物 とは、国の定めた基準で、農産物が生産された地域の慣行レベルに比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培され、認定機関に認められた農産物のこと。

ーー会社の設立は2013年ですよね。減農薬はいつから取り組まれていたのでしょう。

佐々木:母の代からですね。僕の親父が小5の頃に亡くなって、母が農業を引き継いで。当初は農薬を使いながら農業をやってたんですけど、僕も含めた兄弟がアレルギーで皮膚が弱くて。母が僕たちのために減農薬の野菜をつくりはじめたのが発端です。
僕自身も子どもが4人いるので、できる限り「安全安心なものを」という思いがあるし、お客さんにも安心して食べてもらえるような野菜づくりをしています。

特別栽培だと、なかなか面積規模を広げるのが難しいところもあって。売り上げのこととかを鑑みて、慣行栽培※にシフトするケースもあるんですけど、うちはふたつの栽培方法の間をとってる感じ。二極化するんじゃなくて、どうしても農薬が必要な作物には必要最低限だけ使って、不必要な部分には使わないっていう。
こういうハイブリッドな方法が、北海道らしいんじゃないかなって思うんですよね。

※慣行栽培(かんこうさいばい)とは、一般に行われている栽培方法で、通常生産過程において農薬や化学肥料を使用する従来型の栽培のこと。

惑いの20代を越えて

お母さんが子どもの体を気づかうことからはじまった減農薬の野菜栽培。今では、多くのスタッフとともに生産から物流までを手がける会社へと成長したベジタブルワークスですが、佐々木さん自身は時に迷いを抱えながら進んできたと言います。

ーーお母さんの代で減農薬の野菜づくりをはじめて、その後、佐々木さんが継いで法人化したという流れなんでしょうか。

佐々木:僕が継いで10年経ってから、法人化したんですよね。僕、20代後半まではうだつ上がらんかったんで。笑

ーーえ?!うだつが上がらないって・・

佐々木:まず、農業者として思うような野菜がつくれなかったんですよ。
一度、特別栽培をやめて、慣行栽培にシフトしたこともあったんです。最初のうちは面積も小さかったし、売り上げも小さかったんで、まわりの芝が青く見えたというか。みんな広大な面積で、「なんか、でっかくてかっこいいなー」って。慣行栽培にチャレンジしてみたものの、僕の技術がともなってなくて。何年間かやったんですけど、ダメでしたね。

ーーそこから何か変化のきっかけがあったんでしょうか。

佐々木:潰れそうになったんですよ。

そうなった時に、潰れる原因が自分にあるのか、販売にあるのか考えたんですよね。
「自分が生産した野菜の良し悪しすら、誰かが決めた基準で判断される」っていうのが、僕的には納得がいかなくて。その姿勢が如実に作物にもあらわれて・・。その繰り返しで赤字になって、もう辞める寸前までいって。でも周りの目もあって、なかなか決断ができなかったんですけど。

ーーどうやって踏ん切りを?

佐々木:周りは助けてくれないですもん。シビアな話ですけど。

自分の運命って自分で持つしかない。どうせ潰れるなら、生産から販売まで全部自分で責任持った方がいいし、諦めもつく。そうじゃなければさ、悔しい部分だけが残っちゃうじゃない。だから、なるべくなら自分でできることを精一杯やりたいなって。そっちの方がお客さんに伝わるような気がして。

周りの目を気にしなくなって、自分たちで全部やろうって切り替えた結果、その年にいきなりプラスに転じることができたんで。じゃあ「もう1年やってみようか」って、繰り返した結果が今。

なるべく人間の手がたずさわるような、ブロッコリーやアスパラなんかを選んで作ったんですよね。単価も高いし、特別栽培に手を伸ばしてくれる人がちゃんといる。自分のつくったものを自分で売った方が、間違いなく自信持ってオススメできるし、お客さんに届けることができれば、それって最高じゃないですか。

ただ、面積は決まってるし、一度に全てを切り替えるのは難しいので、「じゃあ、豆からやめよう」って取捨選択していったんですよね。

ーー豆とかって北海道の農家さんにとって主力作物なので、そこをやめるのは結構勇気が必要だったんじゃないですか?

佐々木:めちゃくちゃいりましたよ。
机上論じゃないけど、「豆の生産をやめたとして、より利益や雇用が生まれるかどうか?」を計算するんですよ。もともと僕、そんな面積でかくないので、決まった中で商売するなら合理的な方がいいじゃないですか。シナジー効果がある方が重要なのかなって。

特別栽培に戻してから、順調に伸びて行きましたけど、そこまでに10年くらいかかってるんですよね。大変だったね。ありがたいことに、認知度とともに面積が広がって、経営も大きくなって、お客さんに助けられてます。

お客さんに直接届けられると、応援してもらえたり、Win-winの関係が構築できるんですよね。野菜という僕たちの作品を、純粋に客観的にお客さんに評価してもらえる状況を、僕は作りたかった。それを続けていくことで、「ベジタブルワークス」っていう会社の理解者が増えて、また注文がいただけたりだとか、なんかそれって重要じゃない。

本来は、個人のやり取りでも野菜って買えるんだから。でも、そこって手間のかかることでもあって。多少手間がかかるとしても、生産から輸送、販売まで僕たちにできることは、やっていきたいなって思うんですよね。

面積は55倍に。多様なスタッフとともにつくり届ける

佐々木さん曰く、「特別栽培に切り替えてから、どんどん巨大化していった」というベジタブルワークス。取引先には、オイシックス・ラ・大地や成城石井、コープさっぽろなど、こだわりの野菜をあつかう企業が名を連ねます。

ーー取引先はどうやって開拓していったのでしょう。

佐々木:めちゃくちゃ営業ですよ。母の代から続いている取引先もあるんですけど、そこから派生していったり、紹介してもらったり。電話して、営業させてもらったところもあります。こだわりもって生産してる野菜なので、チャンスをもらいやすいんですよね。

「自分の野菜がどこまで世間で評価されるのか」を試したかった気持ちもあったし。結果が出るとうれしい。最初は2ヘクタールからスタートした畑が、今は110ヘクタールになりました。

ーー55倍ですね!スタッフもたくさんいらっしゃるんですよね。

佐々木:60名くらいいますね。僕たちの会社、若いんですよね。平均年齢32とか。みんなスノーボードとかスキーとかをベースに持ってるんで、エネルギーが凄まじい。
外から見ると、すごく勢いがあったり楽しそうに見えるかもしれないですけど、その下ですっごい漕いで、仕事してるんですよね。白鳥みたいに。

ーー60名もスタッフがいるとなると、チームワークのために意識してることはありますか?

佐々木:スタッフは十人十色。働くスタイルも一人ひとり違います。だから、安全性の確保と情報共有は大事にしてます。仕事については、完全に実力主義。ステップアップのために、資格をとってもらうようにもしてます。手に職つけた方が次の仕事も有利なんで。

これから、AIに仕事が奪われる・・みたいな話もありますけど、僕は人間と機械の共存がいちばんかっこいい気がするんですよね。
オール機械だと合理的にはなるんだけど、何かあった時に対応しきれなくなる。人間を追い詰めるのは、なんか違うでしょ。だから、うまく共存できるといいよね。

農業の新しいあり方を真狩から

ーー面積もスタッフも増えて、順調に成長してきましたね。

佐々木:
実は、経営的には今が一番しんどくて。

今年は変な雨が降ってたりするんで、作物に影響が出てますし。ロシアのこともあるんで、みなさん、財布のひもが厳しくなってきてるんですよね。なんで、いろいろ模索しないといけないなと思ってます。

ーー気候変動や世界情勢の影響もある中で、今後チャレンジしたいこと、構想していることはありますか?

佐々木:にんじんジュースなどの加工品を、ゆくゆくは自社工場で手がけたいですね。

商品開発にも取り組んでいます。ひとつは、さつまいもを焼き芋にして、レトルト加工した商品。特別な条件下で加工すると、プリンみたいな味わいになるんですよ。

開発中の北海道産さつまいもを使ったレトルト焼きいも。ちょっとした手土産にもぴったりのかわいらしいパッケージ
開発中の北海道産さつまいもを使ったレトルト焼きいも。ちょっとした手土産にもぴったりのかわいらしいパッケージ

佐々木:もうひとつ加工品として思い入れがあるのが、ゆり根をほぐした「ときゆり」。真狩村ってゆり根の産地で、昔から「ときゆり」を作ってたんです。でも、手間がかかるのでだんだん手がける人が減ってしまって。村内のゆり根農家の人から「伸、なんとかしてくれない?」って言われて、商品化しました。

ときゆりのレトルトって、他では売ってないんですよね。思い入れがあるものなんで、売れていけばいいなぁと思ってます。ときゆりと、とうもろこし、にんじんジュース、焼き芋を合わせたら、真狩らしいセットになるんじゃないかな。

ベジタブルワークスって、特別栽培基準で生産してる農家としては、国内でも結構大きな部類なんですよね。生産した野菜って、100%商品になるわけじゃなくて、廃棄ロスとかもでてきます。そこをいかに減らせるかっていうのが、加工の意図でもあって。物流の面でも、関西まで足を伸ばせるようにしたいですね。いまは関東6県しかまわれてないんで。自分たちがつくった野菜をもっと遠くまで、自分たちで運んでいきたい。

自分たちでつくる、届ける、販売する。
そういう風にやっていければ、
「農家っておもしろい」ってみんな思うだろうし、かっこいいじゃない。

「自らの運命は自らの力で切り開いていくーー佐々木さんの行動力と判断力に感銘を受けた取材。「生で食べてもおいしいよ」といただいたとうもろこしは、甘みがギュッとつまっていました。
食の大地北海道の小さな村から、新しい農業のカタチを切り開いていくベジタブルワークス。未来を見据える佐々木さんの瞳はキラキラと光っていました。

会社情報


ベジタブルワークス株式会社
〒048-1615 
北海道虻田郡真狩村字緑岡86番地1
TEL :  0136-45-2006
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