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三笠市

歴史を未来へのエネルギーに。三笠市から伝播する石炭の新たな可能性

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歴史を未来へのエネルギーに。三笠市から伝播する石炭の新たな可能性

三笠市事業者の想い

文:本間 幸乃  写真:斉藤 玲子
 
燃える石「石炭」の発見から開拓されたまち、三笠。炭鉱が閉山し、多くの人が去った今もなお、地下には約7.5億トンの石炭が眠っているとされています。
この豊富な資源を活用できないか?という思いからスタートしたのが、三笠市「H-UCG(ハイブリッド石炭地下ガス化)事業」。かつてまちの発展を支えた石炭から、新たな産業とエネルギーを生み出そうという取り組みです。
地域再生をかけた事業への想いとこれまでの歩みについて、三笠市役所産業開発課の能瀬博隆さん、竹内翔平さんにお話をうかがいました。

写真左:三笠市産業政策推進部 産業開発課 産業振興係 係長 能瀬博隆さん 写真右:三笠市産業政策推進部 産業開発課 産業振興係 主事(カーボンリサイクルグループリーダー)竹内翔平さん (部署・役職は2024年11月現在のもの)
写真左:三笠市産業政策推進部 産業開発課 産業振興係 係長 能瀬博隆さん 写真右:三笠市産業政策推進部 産業開発課 産業振興係 主事(カーボンリサイクルグループリーダー)竹内翔平さん (部署・役職は2024年11月現在のもの)

三笠の石炭に再び火を灯す

地中にある石炭資源に着目した、三笠市独自の試みが「H-UCG(ハイブリッド石炭地下ガス化)事業」です。燃焼させた石炭から環境にやさしいエネルギーとして注目される「水素」の製造を目的としています。

ーーH-UCG事業とは、どんな取り組みですか?
 
竹内:石炭を燃焼させて発生したガスから水素を取り出し、クリーンエネルギーとして生産・供給を目指す取り組みです。
 
水素の製造方法は主に2つ。
1つ目は「石炭の地下ガス化」です。地中にある石炭の一部に着火し、その熱で周囲の石炭をガス化させ、生成したガスから水素を取り出します。
2つ目は「地表ガス化」。地表に設置したガス化炉で、石炭と木質チップを燃焼させ、水素を製造・増産する方法です。市内にある豊富な森林資源も有効活用できます。
 
さらに、水素製造の過程で発生する二酸化炭素(CO2)の処理・活用についても、並行して検証しています。CO2をかつての石炭採掘跡に戻し入れ、貯留・固定化することで、排出量を削減できるのです。

H-UCG事業が始まったのは、2008年(平成20年)。かねてより石炭の地下ガス化について研究していた、室蘭工業大学の板倉賢一 特任教授との出会いがきっかけでした。

竹内:板倉教授の研究発表会を聞いた職員が、当時副市長だった西城市長に報告したことが事業のはじまりでした。その報告を機に、「三笠をフィールドとした実証実験ができないか」と、西城市長が教授に提案したのです。
 
西城市長は、1989年(平成元年)に幌内炭鉱が閉山し、炭鉱の歴史が途絶えてしまった頃から経済対策に奔走してきた方。「三笠に新しい産業を」という強い信念のもと、この事業にGOサインを出したのでしょう。
 
板倉教授に加えて、NPO法人地下資源イノベーションネットワークの出口剛太理事長にもご協力いただき、取り組みをスタートさせました。

「過去のエネルギー」からの脱却を。事業をつないだ職員の熱

まちの再起をかけて始まった、三笠市の新たな挑戦。2011年(平成23年)より室蘭工業大学と連携し、石炭地下ガス化の実証実験が開始されました。

2012年(平成24年)には研究施設を開設し、ドラム缶や人工炭層を用いた実証実験が重ねられました。しかしながら、大規模なプロジェクトゆえに立ちはだかったのが資金の壁です。
全盛期には6万3千人以上いた三笠市の人口は年々減少し、2015年(平成27年)には1万人を切るほどに。厳しい財政の中でも事業を継続させようと動いたのは、職員でした。

ーー事業の苦労はどんなところにありますか。
 
竹内:一番は財源の確保です。基本的に市の一般財源は最小限に留め事業を進めているので、外部から調達するしかありません。補助金や交付金のほか、ふるさと納税や企業版ふるさと納税も活用させてもらいながら進めてきました。
 
私も能瀬も異動を機に携わっているのですが、立ち上げは特に大変だったと聞いています。
国や北海道に援助の打診をするも、産炭地支援の施策は終了していました。加えて石炭は他の化石燃料と比べてCO2の排出量が多い。「石炭=過去のエネルギー」というイメージが強かったのだと思います。

ーー厳しい状況の中、どのように進めていったのでしょうか?
 
竹内:財源や人材は「足で稼ぐ」。前任者から受け継がれてきた方法です。道内外の関係機関に補助金や交付金の相談をしたり、イベントに出向いて事業のPRをしたり。とにかくこちらから動いて仲間を増やしてきました。
 
能瀬:こちらが熱心に通っていると、相手の対応も変わってくるんですよね。
 
竹内:実証実験にあたっては、専門的な知見も欠かせませんから、研究機関や企業への協力依頼にも出向きました。自治体と企業のマッチングイベントなど、多くの企業と繋がりを持てる場にも積極的に参加しています。
チャレンジングな場面に携われているのは非常に楽しく、やりがいを感じますね。

ーー市民の反応はいかがですか?反対意見などはなかったのでしょうか。
 
竹内:市民には報告会や広報誌を通して進捗をお伝えしていますが、幸いにもこれまで反対意見をいただいたことはありません。
炭鉱や鉄道、ダルマストーブなど、市民にとって石炭は身近な存在でした。「石炭を使って新しい産業ができるなら」という後押しを感じます。

報告会の様子(提供:三笠市)
報告会の様子(提供:三笠市)

脱炭素社会への新たな道をつくる

H-UCG事業は当初、石炭の生産ガスから電気をつくる計画だったといいます。職員と市民が一丸となりプロジェクトが進行しましたが、どのような実験を、どの財源で行うべきか?試行錯誤を重ねていました。方向性を探るなかで繋がったのが「水素製造」の道でした。
 
竹内:ガス化の過程でつくられる「水素」に主眼を置き、CO2の貯蔵・固定化を追加したことで、事業が大きく前進しました。
2021年(令和3年)12月には、経済産業省の所管機関であるNEDO※の公募事業「地域水素利活用技術開発」に採択されました。現在も研究機関や企業とともに実験調査を進めています。

※NEDOとは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称。日本のエネルギー・環境分野と産業技術の一端を担う国立研究開発法人のこと。

NEDOからの委託事業は大学や企業、NPO法人など18の組織による協力体制のもと実施されている。
NEDOからの委託事業は大学や企業、NPO法人など18の組織による協力体制のもと実施されている。

竹内:同じ年に、企業版ふるさと納税でLINEヤフー株式会社から、1億円の寄付があったことも追い風になりました。脱炭素社会への後押しとして、「CO2の固定化」を評価・支援いただいたのです。寄付理由には、道内外にある旧産炭地への展開に対する期待も込められていました。
この寄付金を活用して、2022年(令和4年)には、採掘跡に地下400mの穴をあけ、CO2を送り込む大規模な実証実験を行うことができました。
実用化できれば、炭鉱跡のみならず金属鉱山への応用も可能と考えています。

ーー可能性が広がりますね。
 
竹内:石炭の地下ガス化、地表ガス化についても、実用化までに必要な工程が見えつつあります。
私たちが目指しているのは、地産地消のエネルギー製造です。地域単位で使えるエネルギー量や規模の検証、それに伴う資金確保が今後の課題。現状を整理しながら一つずつ解決していきたいと思っています。
 
 
ーー事業とともに、職員の熱意も受け継がれている印象をうけました。
 
竹内:石炭は先人たちが築いてきた歴史の中心にあったものです。まちの重要な構成要素だった「石炭」を、もう一度活用する道をつくるのは、今の時代を生きる私たちの使命だと思っています。
 
燃焼過程で発生するCO2を適切に処理できれば、石炭は環境に負荷のない形で使えます。
時代の流れによって、エネルギー源としての石炭は一度消えてしまいましたが、石炭は悪者ではない。どう使うかが重要なのだと、伝えていきたいですね。

炭鉱の歴史と未来の共存。三笠モデルの実現を目指して

石炭に新たな価値を見出し、協力者を得ながら実験規模を広げてきた三笠市。実用化された未来をどのように描いているのでしょうか。

ーー最後に、水素エネルギーが利活用されたまちづくりの構想を教えてください。
 
竹内:石炭の地下ガス化から生成された水素を利活用した、「カーボンニュートラルなまちづくり」を目指しています。
まず構想しているのは公共施設への導入です。水素は貯蔵しても量が減らないエネルギーなので、防災の観点からもメリットが大きいのです。
将来は、三笠高校生レストランなどで、水素調理器具の活用などもできればと考えています。
 
H-UCGが実用化できれば、三笠市のみならず、国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現にも寄与できます。
 
 
ーー石炭を過去の記憶ではなく、新しい資源として捉え直す事業だと感じました。
 
竹内:そうですね。三笠は石炭産業のはじまりから全盛期、そして衰退までのストーリーを辿ってきたまちです。「炭鉱のエレベーター」と呼ばれる立坑櫓(たてこうやぐら)も当時のまま残されています。
2025年の実証実験では、旧奔別(ぽんべつ)炭鉱の敷地内にガス化炉を設置し、「これから」の石炭の使い方も示したいと考えています。

旧奔別炭鉱立坑櫓
旧奔別炭鉱立坑櫓

竹内:石炭産業が衰退してから現在まで、「新産業の創出」は三笠市にとっての悲願です。
脱炭素への取り組みと両立させた「三笠モデル」の実現に向けて、これからも一歩ずつ進んでいきます。

財政が厳しい中でも事業継続を諦めず、資金や人材集めに奔走された三笠市職員の方々。その姿から、まちの未来を担う責任と誇りを感じました。
石炭から生まれるクリーンなエネルギーの実用化を目指し、三笠市は未来に向けて挑戦の炎を燃やし続けます。

三笠市よりお知らせ

【ふるさと納税・選べる使いみち】
三笠市ふるさと納税では、使いみちを指定しない“市長におまかせ”を除き、寄附者様の意向を反映できるよう9つの使いみちから選択することができます。使いみちの一つとして、ゼロカーボンシティ・クリーン水素製造事業への項目もあります。
 
「9.ゼロカーボンシティ・クリーン水素製造事業」
三笠市では、クリーンな水素の地産地消を通じた地域活性化を目指しています。
未来のエネルギー「水素」による新たなまちづくりの実現に向けて、応援をお願いします。
 
その他、8つの使いみちや事業実施報告もぜひご覧ください。

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