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三笠メロンで再びまちを潤す イオンアグリ創造の地域に根ざした農づくり

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三笠メロンで再びまちを潤す イオンアグリ創造の地域に根ざした農づくり

三笠市事業者の想い

文:浅利 遥 写真:斉藤 玲子

陽をたっぷり浴びて甘く熟したメロン。

北海道のメロンというと、夕張や富良野のメロンが有名ですが、三笠でも生産者のたゆまぬ努力によって、100年以上もの間メロンが大切に育てられてきました。三笠のメロンブランドの中でも、ジューシーな食感と甘みで人気がある「I.Kメロン」。しかしながら、この品種を栽培できる農家は、現在片手で数えられるほどとなっています。背景には、雇用機会の減少や後継者不足といった課題が。希少になったI.K種をはじめ、メロン栽培に取り組んでいるのが、イオンアグリ創造株式会社です。地域に根ざしたメロン栽培について、同社の北海道三笠農場で農場長を務める山貫 伸一郎さんにお話しをうかがいました。

三笠メロンを守り、つなぐ

全国に農場を構えるイオンアグリ創造株式会社は、イオングループの農業法人。2014年に北海道初となるイオン農場を三笠市に開場しました。その土地は、代々メロン栽培が行われていた農地だったそう。
「長年続いた三笠メロンを守りたい」という三笠市と地主さんの思いを受けて、同社としては初めてメロン栽培に挑戦。地域の方々と連携しながら、栽培技術の継承や担い手の育成を行っています。近年のふるさと納税では、全国ランキングの上位に昇りつめるほど、三笠のメロンは勢いづいてきています。

ーー三笠のメロンはふるさと納税でも人気ですよね。どんなメロンを栽培しているんですか?

山貫:三笠農場で栽培しているメロンは4品種あります。いずれも赤肉で、I.Kメロン、ティアラ、北かれん、おくり姫の順に、時期をずらして栽培しています。
4品種の中でも唯一、I.Kメロンは三笠市の伝統的なブランドメロン「三笠メロン」に登録されています。とろける食感と強い甘みで、味が良いんですよ。

農場では雪が降る時期を除いて、常にメロンがある状態を目指しています。2021年からは秋メロンとして、おくり姫という品種の栽培を始めました。

ーーメロンといえば夏のイメージでしたが、秋メロンですか!

山貫:秋メロンの需要ってあるのかな?と思ったんですが、意外と反応が良くて。夏から秋にかけて日照時間が短くなって、時間をかけて成熟する分、しっかりと甘みがあって果肉も柔らかくなります。

ーーメロンを育てるために大切にしていることはありますか?

山貫:ひとつは、メロンにしっかり栄養が行き渡っているか、つると玉の様子を観察すること。もうひとつは、収穫するタイミングをしっかり見極めることですね。
メロンは最初、つるを伸ばす方にエネルギーを使います。メロンの花が咲いて、玉がある程度育ってきたら、つるの成長を止めて栄養が玉に届くようにするんです。

メロンの周りの葉が枯れてきて、玉の裏側が黄色っぽくなっていたら収穫どきです。タイミングをのがすと、割れてしまうので、逐一様子を見ることが大切です。

ーー三笠市のイオン農場は2014年にスタートしたと伺いました。どのような経緯でメロン栽培を始めることになったのでしょう?

山貫:三笠農場を始めるにあたって市や地主さんから「三笠メロンの生産者が減っている」という話があったそうです。
イオンでは2001年から「フードアルチザン(食の匠)※」という活動を全国で行っていました。衰退してしまった三笠メロンを守り、次世代に受け継ごうと、行政・生産者・イオングループの三者が連携して、「北海道三笠メロン食の匠協議会」を設立。三笠農場のスタートと同時に、メロン栽培の技術継承と担い手の育成を目的とした取り組みが始まったのです。

先人の土が支えてくれた、手探りのメロン栽培。

地域の方々とパートナーシップを組んで始まった、イオン農場初のメロン栽培。2020年から農場長をつとめる山貫さん自身も、三笠農場で初めてメロン栽培に挑んだそう。土地に適した栽培方法が分からない中、手探り状態からのスタートでした。コミュニティ社員としてメロン栽培に携わる工藤瞳さんも加わり、トライアンドエラーの日々についてうかがいました。

ーーお二人ともメロン栽培は初めてだったそうですね。

山貫:最初は右も左もわからない状態で、まずはとにかく勉強でしたね。他のイオン農場ではメロン栽培の事例がなかったので、地主さんやメロン栽培に長けた生産者さんから教えてもらった情報は、すごく貴重でした。

それでも、1年目はうまくいかなかったんですよね。
実が大きくならなかったり、種が腐ってしまったり。収穫のタイミングも分からなくて「いつできるんだろう?」という状態。まだメロンのおしりが青いから大丈夫かなと思ったら、翌日には黄色くなってて「こんなに早く成熟しちゃうの?!」って・・。どうしたら、おいしいメロンを収穫できるのか、方法を見出せずにいました。

ーーそこからどうやって土地に適した栽培方法を見つけていったんですか?

山貫:まず、「メロンがどれくらいで成熟するのか」の指標をつくろうと、収穫の目安を作りました。
植えた日から、毎日の平均気温を累計していくんです。積算温度って言うんですけど。「合計が1,500度になったら収穫期」という目安を作って、それをもとに判断を繰り返しました。経験を重ねるうちに「あ!そろそろ採れる」っていうのが分かるようになってきて。2021年から、ようやくベストなタイミングで収穫できるようになりました。

山貫:特にI.Kメロンは予測しにくくて。温度コントロールが難しいので気を遣いますね。暑くなったら、ハウスの風通しを良くして温度の上昇を抑えたり。スタッフみんなで、常に気を配って生育状況を見ています。

ーー繊細なんですね。天候に左右されることもありますよね。

工藤:そうですね。雨が降り続くと水害が起こってしまうんですよね。水を吸いすぎると、雑菌が入ってメロンが割れたり、腐ったりするんです。

山貫:特に大雨が降って、翌日晴天で暑くなった日は、水を吸いすぎて割れてしまうんです。大切に育ててきたのに、どうしようってショックですよね。

畑の場所によっても差があります。土の状態によって、メロンの出来や水害の影響度合いが変わってくるので、土作りも怠らずやっていかないとね。8年間つづけてメロンを栽培できている場所もあって、そこは、やっぱりメロンに適した畑ということなんでしょうね。

ーー良い土の状態に助けられている部分もあるんですね。

山貫:昔から畑だったらしいんですが、場所によって土壌環境が違うんですよ。「ここで作物を栽培してたんだ」とか「家があったんだ」とか、歴史を感じますよね。この土地は、昔の生産者さんが丁寧に土作りから手がけて、栽培していたんだなって。良い土台作りをしてくれた昔の方々には本当に感謝です。

三笠のメロンをつなぎとめる

暗中模索のメロン栽培から徐々に生産量が定着し、2022年からは通年栽培がスタート。三笠の特産品としてより多くの人に知ってもらうため、次世代に向けたプログラムにも取り組んでいます。

ーーこれまでのメロン栽培の積み重ねを経て、今後チャレンジしてみたいことはありますか?

工藤:メロンの生産が増えるということは、それだけ食べてもらえる機会も増えるということ。より多くの方々に「三笠メロン」を知ってもらいたいです。北海道メロンと聞いて、三笠メロンを連想してもらえるようになったら嬉しいですね。せっかく長きにわたって大切に育てられてきた美味しいメロンが、ここで衰退するのはもったいないですから。子どもたちを対象とした農業体験もやっているので、そういう企画を通じて三笠市外の方々にも知ってもらえたらいいなと思います。

ーー体験イベントもやっているんですね。

山貫:「イオンチアーズクラブ」の子どもたちを対象にした農業体験プログラムを、毎年、イオンワンパーセントクラブが主催しているんです。植えるところから収穫までを通して、「農作物がどうやってできているのか」を体験してもらうプログラム。地域の農業への理解を深めてもらおうという趣旨でやっています。

メロンは気を遣う作物なので、収穫体験できるところってなかなかないはず。三笠農場ならではのおもしろい取り組みだと思います。次世代の方々に向けたイベントが、将来的に三笠メロンの継承に繋がるとうれしいですね。

山貫:それと今後も、年間通して「常にどこかのハウスにメロンがある状態」にしたいですね。今は夏と秋の2回転でメロンを作っています。今後は緻密に計画を立てて、回転数を増やしたり、冬期間の施設栽培にも挑戦してみたい。

というのも、この会社で農場長という立場になって、地域の雇用のことや運営体制について考えるようになったんです。雇用機会をつくるために、一年を通じてメロンがある状態にしたい。

作物を作るだけじゃなく、「作る人と食べる人をつなぐ」経営者としての視点を持って取り組んでいきたいですね。

全国各地にメロンの出荷を行う現場を案内していただくと、着いた先は廃校した中学校の体育館でした。市が保有する校舎の一部を選果場として「好きなように、使ってください」と市役所職員が言ってくださったそう。多くの人に届けられるメロンの裏側には「三笠のメロンを広めよう」と、共に伴走するまちの人々の前向きな姿勢が見えました。
陽と人のあたたかさと。それらをたっぷり浴びてできたメロンに、心がほどける「おいしい」がこぼれてきます。

会社情報

イオンアグリ創造株式会社 
北海道三笠農場
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