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愛犬との記憶をそばに。PAPIPUPE-POOがかたどる想いのかけら

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愛犬との記憶をそばに。PAPIPUPE-POOがかたどる想いのかけら

三笠市事業者の想い

文:髙橋さやか 写真:斉藤玲子
 
犬は大切な家族。愛くるしいその姿は人々の心をときほぐし、喜びや楽しみをわかち合うかけがえのない存在です。三笠市で犬をモチーフにしたグッズを製作するPAPIPUPE-POO(パピプペプー)は、愛犬に接するようにひとつ一つの作品を大切に送り出しています。きめ細かな職人技で作品を生み出す、代表の斉藤和久さんにお話をうかがいました。

愛犬との出会いが導いた創作活動

三笠の市街地から車で10分ほど。奔別(ぽんべつ)炭鉱跡地にほど近い場所にPAPIPUPE-POOのアトリエはあります。古民家を改装したというアトリエは、青い屋根に白い壁、朝顔に彩られたかわいらしい外観です。

斉藤さんが三笠にアトリエを構えたのは7年ほど前のこと。ご両親が高齢になったことから、実家に近いこの場所に移り住んだそう。自然豊かな環境の中で、PAPIPUPE-POOの作品は生み出されています。
 
ーーいつ頃からPAPIPUPE-POOをスタートしたのでしょう。
 
斉藤:20年前にトイプードルを飼ったことがきっかけなんです。
愛犬マシューをモチーフにしたステッカーを作って、インターネット販売したことから、PAPIPUPE-POOがスタートしました。PAPIPUPE-POOという名前は、プードル(POODLE)をもじってつけました。
 
当時はプードルをモチーフにした雑貨がまだ珍しかったこともあって、ヒットしたんですよね。「プードル 雑貨」で検索すると、うちがトップに出るくらい。それを機に続けてきた感じです。
 
10年くらい前からはキャニスターなどの雑貨も手がけるようになって、少しずつ犬種も増やしていきました。

ーー作品を製作する上で大切にしてることはありますか。
 
斉藤:購入してくれた方が、ずっとそばに置いておけるような一品にしたいと思ってます。
 
マシューは一昨年(2021年)18歳で亡くなったんですが、親しくしていた友達も同じ時期に旅立っていって。喪失感を抱く友人に作品をプレゼントすると、すごく喜ばれて、大切に飾ってくれてるんですよね。愛犬を失っても、その仔への思いとともにそばに置いておける、愛着のわく作品を目指しています。
 
作品はデザインからオリジナル。僕好みの“シンプルで飽きのこないデザイン”を形にしています。自分主体でつくっているので、お客さんの好みがマッチした時はすごく嬉しいですね。
 
キャニスターについている犬のモチーフは、杉の木を糸鋸でカットして作ってるんですよ。ひとつひとつ手作業なので、 厚みがありつつ扱いやすい木を選びました。

もこもことした細かい毛並みを糸鋸で再現するのは、まさに職人技。
もこもことした細かい毛並みを糸鋸で再現するのは、まさに職人技。

斉藤:昨年(2022年)からは新たに「三笠のいきものたち」というシリーズもはじめたんですよ。釣りをしたり、三笠の自然と戯れているうちに、三笠ならではのモチーフもいいんじゃないかって。
 
以前、向かいに住んでいたおじいちゃんから譲り受けた三笠の木を使って、小さいものを作ってみようかなと。アンモナイトや恐竜、モモンガなどをモチーフに、ブローチなどを手がけています。
 
道の駅でも販売しているんですが、アンモナイトは子どもたちに人気ですよ。

三笠の生きものシリーズのアンモナイト。最近は譲り受けた木の他、炭鉱住宅など古民家の廃材を生かした作品も。三笠ならではのアップサイクル作品が生まれている。
三笠の生きものシリーズのアンモナイト。最近は譲り受けた木の他、炭鉱住宅など古民家の廃材を生かした作品も。三笠ならではのアップサイクル作品が生まれている。

斉藤:こうした雑貨をつくりはじめたのは、愛犬のおかげ。マシューの存在がなかったら、興味はあっても自分で雑貨をつくって売ろうとは思わないし、できるとも思ってなかった。頑張る力をくれた存在です。亡くなってからロス状態が続いていますが、本当に感謝しかないですね。
 
ーーそれだけ動かす力があったんですね。

オーダーメイドと創作、二つの軸ができるまで

斉藤さんが手がける作品の土台には、長年に渡って営んできた看板業で培った技術があります。斉藤さんはデザインの専門学校を卒業後、テレビ・舞台関連の会社で美術を担当。経験を積んだのち、親戚が札幌で営む看板屋さんに転職し、25年前に独立しました。
 
斉藤:看板は1人のお客さんのためだけに作って、すぐまた違うデザインで新しいものを次々作っていく。1つとして、同じものがない。ステッカーのような小さなものから、お店の看板、空港や札幌ドームの看板といった大きな仕事もお手伝いさせていただき、楽しかったですね。

斉藤さんが初めて手がけた看板
斉藤さんが初めて手がけた看板

1998年から札幌の北区に工房を構えた斉藤さん。バブル崩壊後も順調に看板業を営んでいましたが、2008年のリーマンショックで日本経済は低迷し、看板の需要は減少していきました。
 
 
斉藤:建物が建たないと、看板て作らないじゃないですか。札幌も一時期、マンションやビルが全く建たない時期があったんですよね。仕事も暇になって、結構大変でしたね。
 
規模を縮小することにして、当時住んでいた岩見沢の自宅に工房をうつしました。
 
友達にも1人親方がたくさんいたし、僕も1人親方。大きな仕事が入った時には、協力して仕事しようというスタイルをとっていきました。

本業である看板業の縮小と時を同じくして、スタートしたのがPAPIPUPE-POOでした。「基本的にいつも楽しくやってきた」と斉藤さんは語ります。
 
ーー本業の看板とPAPIPUPE-POOでは、向き合い方が違うのでしょうか。
 
斉藤:やっぱり本業はお客さんありきですよね。「こんな看板つくってください」と依頼されたものに対して、「こんな感じでどうですか?」っていう。デザインにしても何しても、“お客さんが望んでいるもの”を作る。
 
反対にPAPIPUPE-POOは、自分が主体の世界っていうのかな。
僕が「こんなのが欲しい」と思った作品をつくって、何万人に向けて発信する。本業と両軸だったからこそ、続けられたっていうのはありますよね。
 
ただ、自分の作りたいものとは言っても、喜んでくれる人がいなきゃ成り立たない。そこは看板の仕事で、お客さんと1対1で向き合ってきた経験が生きてますね。お客さんのニーズも考慮しながら制作して、1つひとつ大切に送り出してます。おかげさまで一度もクレームはないし、喜んでもらえてますね。
 
とはいえPAPIPUPE-POOの方は、リリースするタイミングとお客さんのニーズがマッチする時期に多少のズレはあって。「これ絶対喜ばれんじゃない?」って出しても、一切売れなかったりね。でも続けてウェブに載せてたら、いきなり2年後に爆発したりするんで、デザインは不思議なもんですね。

三笠で細く長く

「自分1人で好きなようにやっていけるのは、すごくやりがいがある」と語る斉藤さん。しかしその境地に至るまでには葛藤もあったそう。60代を迎えて感じる仕事感と、斉藤さんのこれからとは。
 
 
ーー現在62歳とのことですが、斉藤さんのように暮らしを楽しみながらお仕事されてる姿って、私の世代(40代)にとっては希望を感じます。
 
斉藤:40ぐらいだと不安ですよね。僕も不安でした。
 
ーーそうなんですか。
 
斉藤:40ぐらいは不安っすよね。当時は成り上がってやろうじゃないけど、一発当ててやろうみたいな気持ちもあって、友達と一緒に結構大きな仕事も手がけてたんですよね。
 
ただ、ある時期に考えたんですよね。
大きな規模で会社をやるには、従業員も育てて、次の世代の子たちも育てて・・段階を追っていかなきゃならない。人を育てて会社を大きくするか、一人親方のスタイルでいこうか、どっちでいく?と思った時に、自分には前者は合わないなって。
 
時々アルバイトをお願いする事もあったんですけど、思い通りに行かないジレンマが大きくて。1人の方が気楽だし、「俺には人を育てる能力がない」と割り切って、やめたんですよ。1人親方スタイルを貫こうと。
 
規模の大きい仕事もリスクが大きいので、手伝いはするけど自ら追いかけることはしなくなりました。少しずつ規模を縮小して、自分のできる範囲でやっていこうって。
 
そう決めたら肩の荷が降りて、50歳ぐらいかな。「ま、いいんじゃねえかな」って。
自分に見合った、自分の生活にあった、無理しなかったってことが1番だったと思うんですよね。 だから長くやっていける。

ーー自分サイズで長く続けられるのは理想ですよね。今後チャレンジしたいことや将来の夢はありますか。
 
斉藤:将来の夢・・細く長くですよ。笑
 
最近は三笠でもいろんなイベントがあって。去年から仲良くなった若い子が声かけてくれるんで、一緒に出店したりね。イベントに出店すると、子どもがすごく喜んでくれるし、大人も興味持ってくれるんで、対面時はやりがいがありますね。
 
若い子に後押しされてやってます。みんないい子たちなんで、関わってると元気になれる感じですかね。楽しいですよ。
 
これからも、細く長く続けていきたいなって思います。
 
 
愛犬との出会いから生まれたPAPIPUPE-POOの作品。その背景には自分らしい生き方を全うする職人の姿がありました。丁寧に生み出される作品は、かたわらに寄り添う愛犬のように、暮らしにそっと溶け込みます。

ショップ情報

PAPIPUPE-POO (パピプペプー)

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