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土地の時間をボトルにつめて 空知ワインのパイオニアが描く地図

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土地の時間をボトルにつめて 空知ワインのパイオニアが描く地図

三笠市事業者の想い

写真提供:山﨑ワイナリー
文:高橋さやか 写真:斉藤玲子

北海道の丘陵地で代々受け継いだ農地を活用しながら、家族で営むワイナリー。その言葉の響きに、どこか牧歌的なイメージを抱きながら向かった、三笠市の達布地域。雪の壁の合間を縫いながら、小高い丘を上り辿り着いたワイナリーで出迎えてくれたのは、1人の青年でした。
立体的な視座で語られるワイナリーのこれまでと、これから。目の前に現れた青年から語られる言葉は、ひとつひとつの密度が高く、当初抱いていたイメージはわずか数分で打ち破られます。言葉の端々に垣間見える、目の前の青年が経験してきた時間の濃さ、思考の深さ。
空知ワインのパイオニアとして、三笠市達布地域で20年近くワイナリーを営む山﨑ワイナリーの山﨑太地さんにお話をうかがいました。

自立した農業をめざしてはじまったワインづくり

山﨑ワイナリーは、太地さんの父である山﨑和幸さんが、1998年に農業の傍らピノ・ノワールの栽培を始めことに端を発します。2002年には「有限会社 山﨑ワイナリー」を設立し、農家としては日本で初めて醸造免許を取得。自家栽培の葡萄だけにこだわったワインの販売をスタートしました。地域の自然と共存しながら、少量でも質の高いワイン造りをつづけています。

ーー農業の傍ら、ワインづくりをはじめたきっかけはなんだったのでしょう?


山﨑:父の代では、当初、研修で訪れたニュージーランドをお手本に農業の大規模化を目指しました。多額の設備投資をしたものの、収穫量は増えても収入は増えない。出荷したその先の人々が見えない。そこに疑問を抱き、自立した農業を模索したのがきっかけです。

それまで、敷地内の一部をあるワインメーカーの葡萄栽培用に貸し出していたことと、著名なワイナリー経営者に「葡萄栽培に適している」とアドバイスされたことも、後押しとなりました。

写真提供:山崎ワイナリー
写真提供:山崎ワイナリー

現在は、小規模なワイナリーが点在し、北海道でも有数のワイン産地となった空知地方。その先駆者が山﨑ワイナリーでした。
ーー手探りではじめたワインづくりは、さまざまな苦労があったのでは?


山﨑:前例がないことは苦労しますし、何度も試行錯誤しながら、一歩ずつ進んできました。そういう意味では、大変だったと思います。僕らが顕微鏡と睨めっこしながら突き詰めたことが、今は、Googleで検索すれば一発で出てくるように。笑
とはいえ、困難や苦労をくぐり抜けてきた回数が多いことは、今となっては強みです。

地域では前例のなかったワイン造り。当初は、風当たりの強さを感じる出来事もあったといいます。
ーーそういった風当たりの強さに、心が折れたりはしなかったのでしょうか?


山﨑:その程度で心が折れるのであれば、新しいことや会社なんかやらない方が良いんじゃないですかね。
例えば、会社をつくるとなった時、会社や社会に不満のある人が起業するケースって、見た目にはわかりやすいと思うんです。けれど、不満や反感からスタートすると、事業の継続は難しい。何をして、何をもたらすかが見えないといけないと考えています。

純粋に、「こうなっていきたいという」希望の地図を描ける方が、お互いの理解や共感が生まれて、長続きするはず。

山﨑:前例のないことばかりでしたが、「自立した農業というもの、ワインが地域に幸せの波紋を広げていく姿を見せたかった」というところがあります。きつかった瞬間はもちろんあったと思いますけど、振り返ってみれば「そんなことあったな」くらい。

そういう意味で、僕たちのはじめたワインづくりは、意味と価値に重きを置いています。ワインというのは、地球上で唯一、加水しなくても造ることができる飲みもの。自分たちが栽培したブドウを使って、2019年の三笠市達布の時間を瓶に詰めることができるんです。

山﨑:そのワインを三笠外の人に販売していくことは、イコールいい三笠を販売していくこと。それだけで、僕たちは「いいワインをつくっていこう」「いい三笠を見せていこう」という気持ちになりますし、何よりのやりがいですね。

そのためには、僕自身もワインを造ることの意味と価値をしっかりと意識しないといけません。ワイン以外のことにも興味と関心を持ち続けたいです。常に覚悟を持って決断し、前に進んでいます。

良いことも悪いことも共有して見てくれる三笠の人たち

地域のパイオニアとして、道なき道を歩みつづけてきた山﨑ワイナリー。日本ワイナリーアワード で5つ星を獲得するなど、国内外で高い評価を受けるワインは、地元三笠でも愛される存在です。

山﨑:ワインは、常に評価される飲みもの。専門性も高く、さまざまな面で動きづらさを感じたこともあります。全国メディアで紹介され、ひと時注目されることはあっても、また次の新しいものがどんどん出てきて、人はそれに飛びついてきます。

山﨑:一方で、地元の三笠は、みんなが良いことも悪いことも自然体で共有して見てくれます。三笠の人は、「孫が帰ってくるから」と買ってくれる年配の方がいたり、大切な人への贈り物として重宝してくれる人たちも。

皆さんに自信を持って選んでいただけるよう、期待に応えることができるように、品質の高いワインを造り、良い時も悪い時も支えてくれた地域の人たちにお返ししていきたいです。

そうした地域の人たちの支えで、僕らは、安心してワイン造りに励むことができます。それがパイオニアとしての特権であり、喜び。ずーっとこの土地で、良きも悪きも経験してきてるので。

駆け出しの頃の太地さん。試行錯誤しながらの歩みを支えてくれたのは、三笠の人たちでした。 写真提供:山﨑ワイナリー
駆け出しの頃の太地さん。試行錯誤しながらの歩みを支えてくれたのは、三笠の人たちでした。 写真提供:山﨑ワイナリー

みんなが共存できる場所をつくりたい

風は、乗るものじゃなく、起こすもの。身の丈にあった風を起こしながら、みんなで良い未来に進んでいける、共存できる場所をつくりたい、と語る太地さん。風を起こし続けてきて約20年。これからの山﨑ワイナリーについてうかがいました。

ーー先駆者として、これまで進んできた山﨑ワイナリーですが、今後については、どんな地図を思い描いているのでしょうか?

山﨑:規模の拡大というよりは、より濃さを求めていこうと考えています。規模を拡大するという選択をしても、取り返しのつく年齢なので、判断が難しいところではありますが。

ワインは、年に1回しか造れないんですよね。「あと、30回くらいかな」と思うと、何をしていくべきかなのかは、自問自答するところです。革新的なものというよりは、素地をつくっていきたいですね。新しいものを受け入れる素地を。

僕の場合は、達布に軸足を置きつつ、もう片足は届く範囲で外の世界に。外で見てきたもの・体感してきたものを町や人やワインに反映させていくことが、品質の良さにつながっていくのかなと。

山﨑:あと、これはまだ構想段階なのですが。
いま三笠の子どもたちに、社会科の授業でワインについて教えているんです。
ちょうど、10歳の子たちがワイナリーに来るので、彼らが授業で触れたブドウで作ったワインを、10年後に成人祭で手渡したいと。大人になってからも、同じ樹が同じ場所にあるんです。

小学校3年生の時に見たもの、触れたものがワインになっていたら、そこにあの時の記憶がつまっている。そうやって、町に子どもたちが帰ってくる機会をつくれたらなと。

その時に、三笠がもっと面白い町になっていて「それなら帰ってこようかな」となるような未来を造りたいですよね。一緒に動く人たちにとっても、「今の仕事がここにつながっているんだよ」ってモチベーションになるんじゃないかな。

グラスの奥に地域の未来が見えるワインを

「未来の話をするのはいいですね」と、この日一番楽しそうに語ってくれた太地さん。
「ワインづくりがイコール地域づくりにつながっていく」という太地さんの言葉が、ストンと胸に落ちた瞬間でした。
最後に、肝心のワインについてうかがうと、返ってきたのは意外な答えでした。


山﨑:よくワインの特徴とかって聞かれるんですけど。柑橘系の華やかな〜とか。
最近は、「グラスの奥に地域の未来が見えるワインです」って言って逃げてます。こういう表現をすると、賞レースから逃げたなんて言われることもあるんですが。笑
農産加工品に対する評価やあり方も、地域に対する貢献度も基準になるといいですよね。

ーーすごく素敵な表現だと思いました。
最後に、月並みな質問ですが、山﨑さんにとってワインとは?


山﨑:ちょっとだけお時間もらっていいですか。

山﨑:僕にとってのワインは、証明写真みたいなもの。

運転免許の更新みたいな形で、ずらっと並べて見ると、ずいぶん変わったなと思ったり。
当時の自分が何を考え、どんな理想を描いていたのかが、同時期のワインを飲めば「あ、この時ね」と、ありありと蘇ってきます。

ワインに派手な個性を出そうと躍起になっていた時期があったり。さまざまな変化を経て、最近は、落ち着いた静かな感じに変化してきましたね。

これまで、たくさんの人が背中を押してくれて、「いいワインで返します」と言い続けてきましたけど、ちゃんとした形でお礼を言えていないので。
いつか振り返って感謝を伝えられる機会をつくりたいですね。


オリジナルの地図を描きながら、走り続ける若きパイオニア。「焦らなくても・・」と言葉をかけられ、若さゆえの壁を感じることもあるそうです。たくさんの壁を乗り越えてきた人だからこそ、ひと言ひと言の密度が高く、心を揺さぶられながらの取材となりました。

ワイン造りを通して地域の未来を切り開きつづける、山﨑ワイナリー。ワインボトルには三笠市達布の空気と時間が詰まっています。グラスの奥に、地域の未来を思い浮かべながら味わうワインは、きっと格別です。

ワインのラベルに描かれた花びらは、家族5人の指紋で象られたもの。山﨑ワイナリーの温もりが感じられるデザイン。
ワインのラベルに描かれた花びらは、家族5人の指紋で象られたもの。山﨑ワイナリーの温もりが感じられるデザイン。
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