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五感で三笠を味わえる場を 畑の中のレストランEKARAが目指す未来

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五感で三笠を味わえる場を 畑の中のレストランEKARAが目指す未来

三笠市事業者の想い

文:高橋さやか 写真:斉藤玲子

北海道らしいのどかな景色が広がる三笠の田園地帯に、ポツンと佇む「畑の中のレストランEKARA」。2019年、この地で代々農業を営んできた、三笠すずき農園の鈴木秀利さんが自社農園の敷地内にオープンしました。

レストランでは、自社農園で育った野菜をはじめ、地域の食材を使った四季折々のお料理が楽しめ、併設されたコテージでの宿泊も可能。ゆったりと時間をかけて、五感で三笠を味わうことができる場所です。

「畑を感じながら食を楽しむ時間を、たくさんの人に味わってもらいたい」という、オーナーの鈴木秀利さんにお話をうかがいました。

農村を都会へ届けていた

「畑の中のレストランEKARA」に向かったのは、まだ雪が残る3月初め。道路の両脇を巨大な雪の壁がおおう中、車を走らせると出会った小さな木製の看板。「ここでいいのかな?」と目印をまがった先に、重たそうな雪の帽子をかぶった「畑の中のレストランEKARA」がありました。ほの暗い通路をぬけ、扉を開くと光が差し込む開放的な空間が広がります。朗らかな笑顔で、オーナーの鈴木さんが迎えてくれました。

ーー大きな窓から光が差し込む素敵な空間ですね。


鈴木:ありがとうございます。スタイリッシュさや派手派手しさはないんですけど。
暗い通路を歩いてきて扉をあけると、まず窯の生火に暖かさが感じられるでしょう。

座席に着くと、窓からの景色を味わえるような設計になっています。カウンターとテーブル席には、段差がついているので、他の方と目線を合わせず、窓の外を眺められるんですよ。



ーー心地よくて落ち着く空間だなと感じました。景色を眺めながら何時間でも過ごせそうです。鈴木さんはこの場所で、代々農園を営んできたとうかがいましたが?

鈴木:もともと三笠に生まれ育ったんですが、若い時は農業から離れて、できるだけ都会に行きたくて。一度、サラリーマンになって農薬や肥料なんかを売ってた時期もあるんですが、24歳の時に隣町の岩見沢で八百屋をはじめたんです。なんていうか調子に乗るというか若気の至り。笑

その後、縁があって札幌で、有機農産物や自然食品を扱う「アンの店」をオープンしました。当時は、まだ有機や自然食品が広く一般には知れ渡っていない時期。どうやって啓蒙していこうかと試行錯誤しているうちに、10年15年経っていましたね。

健康ブームや食への意識の高まりもあり、有機農産物や自然食品は、次第に注目を浴びるようになっていきます。さらに生産者と消費者が直接触れ合える場をつくろうと、鈴木さんは生産者とともに、札幌でマルシェを開催。まだ、マルシェという言葉も浸透していない1998年のことでした。

鈴木:全道から生産者が25組くらいかな、集まって。予算もないし、手弁当。真駒内アイスアリーナや月寒グリーンドームみたいな、大きな施設の駐車場だけを借りてね。1日だけの大イベントを2〜3年やりました。
人が集まるのを見ると、行政や観光協会なんかが動き出しました。そこからは、僕らは動きを変えて。

ーー動きを変えて?

鈴木:当時、2000年代のはじめかな。都会の人が農村や1次産業に触れる機会がまだ少なかったんです。そこで、「大豆を育てて味噌をつくりましょう」「そばを打つんなら種まきからやりましょう」といった、食の原点に返っていくようなイベントを実施していきました。

故郷の急速な過疎化からの視点の転換

イベントを重ねるうち、自然と同じ目線をもった仲間が増えていった、と話す鈴木さん。その一方で、生まれ育った三笠の急速な過疎化を目の当たりにし、これまでとは違った視点が芽生えます。

ーー食や農に関する先進的な取り組みを重ねてきたのですね。そこから、どういった経緯でEKARAをオープンされたのでしょう?


鈴木:実家である三笠と都市を行き来する中で、故郷の急速な過疎化と、それに伴うインフラの衰退を目の当たりにしました。例えば、うちの母は自動車の運転免許を持ってないんですけど、ある日、家の前のバス停が無くなってしまって。「移動できない、孤立していく」という現実がありました。

過疎化を防ぐのは難しくても、進行を緩やかにすることならできるんじゃないか。これまでは、農村から都会に出向いていたけれど、これからは来てもらうことで地域が潤い、ビジネスとして成り立つ方法はないだろうか。来てもらうことで、この土地の空気を感じたり、人との交流が生まれる場を作れないだろうか。そんな想いから、EKARAの構想が生まれました。

鈴木:そこから、同じ想いをもった仲間達と、三笠地域における「農」と「食」の連携推進協議会を設立しました。その中で「MIKASA萱野プロジェクト」を立ち上げ、イベントを開催していったんです。「オーチャードテーブル」も、そのひとつ。畑の中にテントを張って、農作業後にシェフが作った本格的な料理や、地元のワイナリーのワインをみんなで味わうというもの。

ただ、それだとスポット的になってしまうでしょう。もっと、年間を通してできることはないだろうかと考えていきました。

レストランだと2時間。さらに、24時間・・2泊3日滞在してもらうには? 考え抜いた末、畑の中にレストランを作りコテージを併設する、という形になりました。

どの席からも眺められる窯の炎をに不思議と心が安らぎます。料理を作るのは、札幌からEKARAのために移住してきたシェフの金子智哉さん。
どの席からも眺められる窯の炎をに不思議と心が安らぎます。料理を作るのは、札幌からEKARAのために移住してきたシェフの金子智哉さん。
オーダーを受けてから具材をのせて焼き上げるピザは絶品。季節ごとに変わる野菜のプレートは、牛蒡の赤ワイン煮など素材の新たな味に出会えます。
オーダーを受けてから具材をのせて焼き上げるピザは絶品。季節ごとに変わる野菜のプレートは、牛蒡の赤ワイン煮など素材の新たな味に出会えます。

大切にしたのは「田舎らしさ」と人の血が通った空間づくり

こうして、三笠の地に生まれた「畑の中のレストランEKARA」。名前の由来は、「~で~を作る(または~をする)」という意味のアイヌ語“ekar”から。「三笠のこの地で豊かな食を楽しむ場を畑の中につくる」、また「この地でさまざまな新しいチャレンジをする」という想いが込められています。
地元の古材を使用した店内や、独立した宿泊用コテージには、随所に三笠らしさを感じられるしかけが。


鈴木:建築は地元の工務店さん、設計は札幌の方にお願いして、環境に配慮した設計になっています。できるだけ、周りの畑に影響を与えないよう、自然に近いものに。
このカウンターも、なるべく少ないスタッフで回せるように工夫して設計されています。

宿泊用のコテージは、テレビもWi-Fiもなく、ものや情報が溢れた世界から遮断された空間。ヒノキ風呂もあって、「ほどよく孤立できる時間」を過ごせます。

当初、長屋で3部屋という計画だったんですが、それじゃあ都会と変わらない造りじゃないかと。もっと田舎だからできるつくりにしようと、コテージ2棟になりました。結果的に接触がないのが、時代にマッチして。

コテージ内部は、木材の香りが漂いコンパクトながらも落ち着く空間。家具やアート、ベッドカバーなど、プロフェッショナルな仲間たちの手によるものだそう。
コテージ内部は、木材の香りが漂いコンパクトながらも落ち着く空間。家具やアート、ベッドカバーなど、プロフェッショナルな仲間たちの手によるものだそう。

EKARAをオープンしてからの1年目は試行錯誤。2年目は新型コロナウイルスの感染拡大。順調とは言いがたい滑り出しの中、応援してくれたのは、地域の方や関わる仲間達だったそうです。

ーー新しい一歩を踏み出したところに、さまざまなことが重なって・・言うまでもなく大変でしたよね。


鈴木:大変なのは経営してからずっと大変。笑
そもそも農地の中に、こんな建物を建てること自体が普通できない。地域のみなさんが、新しいことを受け入れて、力を貸してくれる人たちだったのはありがたいですね。

近くの農家の方が泊まりに来てくれたりね。小中学校のお母さんたちのママ会だったり、行政の人も1人のお客さんとして来てくれて。

コロナだけじゃなくて、今年はこの豪雪。
時代の転換期にあって、影響は受けますよね。ありがたいことに、いろいろな制度や周りの人の支えに助けられてます。

これまでも苦労、これからも苦労。そんなこと言ってられないので。ある程度いろんなことを予想しながらはじめるんですけど、想定外ばっかり起こっちゃう。でも、それは僕だけじゃないですからね。

逆に、人との関わり方に変化が訪れている時代だからこそ、よりどころを求めて来てもらえる場所にしたいなと思っています。

地域全体をブランドに

豊かさや心地良さを体感でき、誰かにとってのよりどころとなるような場所をつくっていきたい。EKARAだけでなく、三笠という地域全体を盛り上げていきたいと、鈴木さんは語ります。

ーー例えば、私自身、札幌のような大きな街に住んでいると、「地域全体で」という意識を持ちにくいのですが。「地域全体」を意識する理由はどこにあるのでしょう?


鈴木:僕たちみたいに小さな町だと、土地が荒廃していなくても、人が住まなければインフラが保てないんです。だから、地域みんなで活性化する仕組みを作らないと。ここにだけ人が集まっても、地域が立ち行かなくなるんです。

結局、ただものを売るとなると巨大資本にはかなわない。場所や環境をブランドとして売っていくことが、おのずと生き残っていく道になります。

店内では、オリジナルのお菓子なども販売。
店内では、オリジナルのお菓子なども販売。

盛り上がってるところには、自然と人が集まりますよね。大事なのは、熱が覚めた時に残れるかどうか。たとえ貧乏になっても笑ってて、「この人たちなんか面白そうだ」と、人がくるような場所です。

面白い人が集まると、そこに引き寄せられる人がやってきます。ハコモノがあるよりは、人がいないと。1人でやったら1人の力ですけど、8,000人の三笠住人が個々にがんばったら、8,000馬力になります。なかなか大きな力でしょう。全員残っていかないと意味がない。

そのためにも、まずは面白そうだと思ってもらえる場を作っていきたいですね。それに引き寄せられるように、三笠に色んな人が来て、カフェとか雑貨屋さんとか、面白い人があつまる街になっていくといいですね。

「小学校6年生の頃の夢は公務員。真逆行っちゃいましたよね」と笑う鈴木さんは、朗らかで親しみやすい人柄。過疎化という、多くの地域が抱える課題を、悲嘆するのではなく、「少しでもゆるやかに、地域に人が集まる仕組みづくりを」と前向きに語る姿が印象的でした。

鈴木さん曰く「三笠市のふるさと納税としてはチャレンジングな、物体のない返礼品」という、EKARAの宿泊券・お食事券。ぜひ、三笠に足を運び、五感をフルに研ぎ澄ませ、EKARAを拠点に、土地の雰囲気や空気を味わってみてはいかがでしょうか。

店舗情報

畑の中のレストラン EKARA エカラ
〒068-2166 北海道三笠市萱野158-1
TEL:01267-2-5530

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