地域と創るグローカル×持続可能なニセコスタイルの教育
ニセコ町プロジェクト
文:高橋さやか 写真:斉藤玲子
世界とつながる町には、世界にひらかれた学びがある。
足もとにある風景を知ること。この土地に流れる歴史を知ること。違いをおそれず、人と関わること。
北海道ニセコ町では、2016年から「ニセコスタイルの教育」を掲げ、幼小中高をつなぐ一貫した学びを追求してきました。多様性とふるさと学習を軸に、地域とともに教育のかたちをアップデートするニセコスタイルの教育とは?
その成り立ちと歩みについて、ニセコ町教育長の加藤紀孝さんと、ニセコ町こども未来課長樋口範幸さんにお話をうかがいました。
ニセコスタイルの教育とは
「ニセコらしい教育の姿を追い求めたい」ーーそんな理想から生まれた言葉が「ニセコスタイルの教育」です。授業スタイル・英語スタイル・ふるさとスタイル・特支スタイルの4つの柱を掲げ、教育の質を高めています。まずは、その成り立ちについてうかがいました。
ーーニセコスタイルの教育について教えてください。
加藤:ニセコスタイルの教育は、町として一体感のある教育活動を展開しようと、2016年にスタートした取り組みです。幼児教育から高校までを見通しながら、ニセコ町全体の教育の質を高めていこう、という考え方が土台にあります。
樋口:距離が近い田舎だからこそ、幼児センターから小学校、小学校から中学校へと進んでいく過程で、学びをスムーズにつないでいけるよう連携体制を築いてきました。各学校単位で行われていた教育活動を改めて整理し、町全体として一貫したスタイルの構築を目指しました。
加藤:時代の変化とともに、教育のあり方も変化します。ニセコ町全体の教育の質を高めていこうと、学校関係者をはじめ、コミュニティスクールや研究会などさまざまな方が関わり、「ニセコらしい教育の姿」を毎年アップデートしています。
つないでいくことの難しさ
幼小中高をつなぐ。言葉にするとシンプルですが、現場では簡単なことではありません。ニセコスタイルの確立に当たって、大切にしてきたのが、学校と学校、学校と地域を「つなぐ」ことでした。
ーーニセコスタイルという一貫した学びをつくるうえで、難しさはどこにありましたか。
樋口:人が異動することですね。学校現場では先生方の異動がありますし、熱意のある個人に依存してしまうと、継続が難しくなってしまう。だからこそ、個人技ではなく、町全体の仕組みとしてどう支えるかをずっと考えてきました。
加藤:先生が一人で悩まない体制をつくることも重要でした。学校のなかだけで抱え込むのではなく、コミュニティスクールや研究会などを通じて、地域や他校の先生ともつながりながら、一緒に考えられるようにしていく。教育の質を持続可能なものにするには、その土台づくりが欠かせません。
ニセコ学にあたって地域人材をご紹介したり、先生同士のディスカッションの場も設けながら、つながりを築いてきました。
ーー「つなぐ」というのは、学校同士をつなぐだけではなく、人と人をつなぐことでもあるのですね。
ニセコスタイルの教育を支えているのは、学校だけではありません。地域のなかにいる大人たちもまた、子どもたちの学びをともにつくる存在です。
加藤:ニセコスタイルの教育において、コミュニティスクールの存在も大きいですね。
学校だけでは抱えきれない事柄や地域からの要望について、学校と保護者、地域の人々がともに考え協力し、地域全体で子どもを育てています。
ーー共働き家庭も増える中で、協力への温度差などはないのでしょうか?
加藤:お忙しい親御さんもいらっしゃいますが、活動に積極的な方とうまくバランスを取って成り立っています。幸いにして、ニセコには多種多様な立場の方がいらっしゃり、応援してくれる人もいますから、その存在は心強いですね。
ーー学校が地域と連携できる良い土壌があるのだなと感じました。
樋口:田舎の良いところですね、距離が近くて、相互理解・共通認識がある。
加藤:ニセコは昔から住民参加と情報共有が土台にありますから。自由にものを言える、みんなで形にしていく土壌、地域に開かれた教育が、結果として子どもたちの学びを豊かにしていくのだと思います。
世界にひらき、足元を深く知る
ニセコスタイルの教育を形づくるのは、学習の規律に関する指針「授業スタイル」、英語教育まつわる「英語スタイル」、ニセコの地域資源を活用した学習「ふるさとスタイル」、特別な配慮を必要とする生徒への支援「特支スタイル」という4つの柱。
中でもニセコらしさが表れているのが、英語教育とふるさと学習「ニセコ学」です。
ーーニセコスタイルの教育の特徴はどんなところにありますか。
樋口:全校へのALT配置やCIL(外国語指導助手)の導入などの英語教育からはじまり、ふるさと学習など、ニセコならではの特色あるカリキュラムを展開しています。
加藤: 「多様性」は当初から重きを置いてきたキーワードです。
ニセコには中国や台湾などのアジア圏をはじめ、米国やオーストラリアなど、46カ国(2025年3月末時点)にのぼる、多様な国籍の方々が暮らしています。国が違えば考え方も異なりますから、コミュニケーションの土台となる英語教育については、特に力を入れてきました。
幼児センターに始まり、小中高と、英語でコミュニケーションをとる楽しさを育んでいます。2025年4月に正式オープンした、ニセコ国際高校の「ワールドビレッジ」では老若男女を問わず地域住民が集い、国際交流の拠点となっています。
コミュニケーションの土台となる英語教育に加え、町が力を入れているのが、ニセコの地域資源や歴史、風土について学ぶ「ニセコ学」です。木育やワイナリー体験、国際文化学習など、グローバルとローカル双方の視点から、地域について学びを深めていきます。
ーーニセコ学は具体的にどのような内容を学ぶのでしょうか。
樋口:当初は、町に自生する水生昆虫と水質調査を起点とした地域の探求活動から始まり、現在では開拓の歴史や、ニセコ町にゆかりの深い有島武郎の歴史や思想についてなど、内容は多岐に渡ります。
加藤: 「自然を守る」「自然そのものへの理解」といった環境分野の学習も、ニセコ学に組み込まれています。ニセコ町は2014年に環境モデル都市にも選定され、環境分野の取組みに長年力を入れてきましたから。
樋口:ニセコは、自然環境そのものが観光や暮らし、産業に直結している町です。だから、町について考えることは、そのまま環境について考えることにつながるんです。
ーーローカルに根ざしながらグローバルな感覚を育てる、「グローカル」な学びですね。
種をまき、未来へ花咲かせる
2016年のスタートから10年が経過した、ニセコスタイルの教育。積み重ねてきた取り組みは、子どもたちにどんな変化をもたらしているのでしょうか。
ーーニセコスタイルの教育によって、子ども達の変化を感じる場面はありますか。
加藤:子ども達のコミュニケーション能力が育成されてきた印象はあります。多文化共生が好影響をもたらしているのかもしれないですね。
樋口:私は、子ども達一人一人に種を蒔いているようなイメージで捉えています。いつ花開くかはそれぞれ違いますし、すぐに目に見える成果ばかりではありません。でも、子どもたちの根っこに“ニセコらしさ”が芽生えていくと信じています。
ニセコスタイルの教育が育ててきたものを、より象徴的なかたちで体現しているのが2026年4月に開校したニセコ国際高校です。世界を見る力と、足もとを掘る力。その両方を持った若い世代の育成を目指しています。
ーーニセコの教育において、ニセコ国際高校はどのような意味を持っていますか。
加藤:英語で人とつながる力、多文化のなかで生きる力、そして地域を自分の言葉で語れる力。そのすべてが、より立体的に育まれていく場がニセコ国際高校です。
ニセコスタイルの教育が目指してきた、「地域に根ざしながら世界にひらかれた学び」の一つの到達点だと思っています。
ーー変化が激しい社会の中で、ニセコスタイルの教育を今後どのように発展させていくのでしょうか。
加藤:子どもの成長段階に合わせて、立派な社会人、国際人として育てていけるような環境作りがニセコスタイルの次のステップかなと考えています。ニセコの良き文化・環境を大切に、多文化共生社会の中で互いを尊重しながら、人と関わっていける人物を育む。そこに貢献できる教育を目指していきたいですね。
樋口: 当たり前のことを当たり前に。これからも地道な取り組みを大切にしていきます。
加藤:ニセコには豊かな教育資源があり、熱意を持って関わってくれる人たちもいます。互いの力をうまく融合しながら、これからもニセコスタイルの教育をアップデートしていきたいですね。
教育の成果は、すぐに見えるもの、数字で測れるものばかりではなく、変化は時にゆっくりです。それでも、目の前の子どもたちに、未来への種をまき続ける。
多様な人が行き交うまち全体が、子どもたちにとって学びのフィールド。
「ニセコスタイルの教育」とは、地域と世界のあいだで、自分の立つ場所を知るための教育なのかもしれません。
Information
ニセコ町よりご案内
【ふるさと納税・選べる使いみち】
ニセコ町では、ふるさと納税寄附金を下記の11つの使い道から、寄附申出の際に選択することができます。平成30年4月1日からは寄附金活用の事業を拡大し、より多くの皆様の意見を反映できるよう進めております。
1.森林資源の維持、保全及び整備に関する事業
2.環境の保全及び景観維持、再生に関する事業
3.自然エネルギー及び省エネルギー設備の整備に関する事業
4.有島武郎に関する資料の収集及び有島記念館に関する事業
5.住民自治の醸成又はコミュニティの推進に関する事業
6.教育、スポーツの振興及び子育て環境整備に関する事業
7.住民福祉及び生活環境整備に関する事業
8.NPO及びボランティア組織の活動に関する事業
9.産業振興に関する事業
10.その他まちづくりに関する事業
11.町長が特に指定する事業(ニセコ国際高校の教育環境整備支援事業)
事業実施報告もぜひご覧ください。

