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地域とともに創り育てる。おおたま学園コミュニティ・スクール

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地域とともに創り育てる。おおたま学園コミュニティ・スクール

大玉村プロジェクト

文:高木真矢子 写真:川原涼太郎

コミュニティ・スクールという言葉を聞いたことはありますか?
「地域運営学校」などと呼ばれることもあり、家庭や地域の意見を学校の運営に生かすための「学校運営協議会」をもつ学校のことです。

安達太良山の麓、豊かな自然に囲まれた福島県大玉村では、2011年4月という全国的にも早い段階から「おおたま学園コミュニティ・スクール委員会」をスタート。10年以上にわたって運営しています。

みんなで支え、みんなで育て、みんなが育つ大玉の教育

大玉村コミュニティ・スクール「おおたま学園」は、村内5つの幼稚園・小・中学校をひとつの学園とみなし、幼小中が一貫的な教育を行うことを目指して営まれています。全国的にも早い時期から導入された大玉村のコミュニティ・スクール。どのような思いから生まれたのでしょうか。立ち上げの背景や、地域との関わりについて、大玉村教育委員会教育部 教育総務課課長の橋本哲夫さん、指導主事の渡邉博樹さんにお話をうかがいました。

写真左:渡邉さん 写真右:橋本さん
写真左:渡邉さん 写真右:橋本さん

ーーコミュニティ・スクール立ち上げの背景について教えてください。

橋本:背景には、大玉村の教育改革がありました。2009年、今の押山村長が教育長時代にコミュニティ・スクールを提案し、県を通して文部科学省の推進事業を受託しました。

教育改革の一環としてコミュニティ・スクールを導入することにより、「人の異動に左右されない、互助・共助によって支える学校教育」を目指したのです。

コミュニティ・スクールを核に、子どもたちに豊かな学びの場と機会を提供し、大きな夢と世界につながる豊かな人間性や、社会性、思考力・判断力・表現力を育てようというものです。同時に、学校を軸とした地域づくりも推進し、子どもも大人も学び合い、育ち合う、「共に学び合う」関係をつくっていこう、との思いが込められています。

ーー基本施策に掲げられている、4つのきょういく「響育」「共育」「強育」「郷育」という考え方がすごく素敵だなと。

橋本:「4つの教育」はうちの特徴的なところですね。

1. 人・自然・地域と繋がり、互いに響き合い、高め合う響育
2. みんなで支え、みんなで育て、みんなが育つ共育
3. 心身ともに健康で、たくましく、未来を切り拓く強育
4. ふるさとを大切にし、伝統や文化を継承し、さらに新しい文化を創る郷育

2011年に教育ビジョンを作成した際、検討委員会の方からいただいたアイディアです。この4つを軸に推進していこうと、今に至っています。

ーー基本施策を軸に、現在はどのような取り組みをされていらっしゃいますか?

渡邉
:この「コミュニティカレンダー」が、一番わかりやすいかなと思います。
幼小中や村の行事をすべて載せたカレンダーを、全戸に配布しているんです。コミュニティ・スクールの説明をはじめ、各学校の運動会や陸上大会の紹介、子どもたちの絵も掲載しています。季節に合わせた行事なども含まれていて、「これ1冊あれば把握できる」内容になっています。

コミュニティカレンダーには幼小中や村の行事、子どもたちの作品や活動報告が掲載されている
コミュニティカレンダーには幼小中や村の行事、子どもたちの作品や活動報告が掲載されている

渡邉:情報を共有することで、「学校運営に地域の方が入っていきやすい」というシステムになっています。保護者をはじめ、子育てが終わった方など、自ら希望してくださる地域の方もいます。おおたま学園コミュニティ・スクール委員会として、幼稚園・小学校・中学校全体でひとつの委員会が運営されています。それぞれが抱える課題について、委員会が中心となって話し合いを進めていく感じですね。

話し合うコミュニティ・スクール委員会メンバー
話し合うコミュニティ・スクール委員会メンバー

運営に欠かせない「地域の理解」

「地域の皆さんがかなり教育に力を入れて、実際に手をかけている点が大玉村の特徴です」と話す渡邉さん。地域との連携が欠かせないコミュニティ・スクールの運営ですが、導入から10年が経った今も、理解をえる難しさを感じるそうです。

ーー全国的にも早い段階での取り組みで、苦労もあったのではないでしょうか?

橋本:コミュニティ・スクールの導入にあたっては、まず「知ってもらう・浸透させる」という点で一番苦労しました。運営には、学校現場はもちろん、地域の方にも理解していただいた上での協力がどうしても必要です。運営開始から10年以上が経ちますが、村民への浸透がまだまだ必要だと考えています。
毎年、幼稚園入園時の保護者説明会では、担当の指導主事とコーディネーターでコミュニティ・スクールについての説明を行っています。

他にも「オータムフェスタ」というイベントやコミュニティ広場などを通して、保護者や地域の方に発信して周知をはかっています。

渡邉:学校現場としては当初、教育課程外の部分に地域の方が入ってくることに、正直戸惑いもありました。
運営の面でも、行事などの調整は大変です。それぞれの発達段階も考慮しながら、組み立てていく難しさがあります。
ただ、実際始まってみたら、「地域の方がこんなに学校を支援してくれるんだ」と。長く関わるほどに、関係性は深まっていきましたね。

ーーコミュニティ・スクールを通して、地域の方や子どもたちの関係性に変化は生まれましたか?

渡邉:地域の方が学校に携わるようになって、子どもとの距離がすごく近くなっています。知らないおじいちゃん・おばあちゃんや、近所の方との繋がりも深まる。登下校時に会うと挨拶し合うような関係になりましたね。

コミュニティ・スクールがないと、学校と地域の方との接点って意外となくて。地域の方が学校に来て主体的に関わってくれることで、接点が増え、距離感も近くなる。地域と学校の垣根がなくなってきているように感じますね。

橋本:地域の人たちのコミュニケーションといえば、地域学校協働活動もおこなっています。以前から、学校支援のボランティアや放課後子ども教室を実施していたものを「地域学校協働活動」という形でまとめて、コミュニティ・スクールと連携しながらおこなっているんです。

伝統文化教室やミシン体験、イベントの引率など、年々充実してきて、ますます地域の方にも関わっていただいています。100名以上の方がボランティアに登録されているんですよ。

ひとつ、特徴的だった地域学校協働活動の取り組みがあります。
地域の伝統文化で「田植え踊り」というものがあって、“伝統文化の継承”という形で、毎年、5年生が学習発表会などで披露しているんです。地域の保存会の方に踊りを教わるんですが、発表する時に着付けが必要で。地域の方もお年を召されたり、少なくなっている中で、手伝ってもらおうといって募集したら、結構な人数の保護者が参加してくれたんです。

手伝うという側面だけでなく、地域の伝統文化を学びながら保護者の方が子どもたちに関わってくれたのは、大きな出来事だったと感じています。

田植え踊りの練習風景(写真提供:大玉村役場)
田植え踊りの練習風景(写真提供:大玉村役場)

橋本:2年前からはボランティアの依頼も、コーディネーターが、学校で直接先生と話をして手配しているのが、大玉村の特徴なんです。

渡邉:先生方って、なかなかボランティアの依頼ってしにくいんですよね。コーディネーターが学校に直接来てくれると、「ちょっと困ったな」っていうときにも声をかけやすいですし、「学校ボランティアにお願いしよう」と、事が運びやすい。小規模な地区だからこそのメリットを生かして、どんどん学校協働活動が活性化していると感じます。

ーー本当に村全体で子育てをしているということなんですね。

子どもたちと共に描く、大玉の未来

地道な周知活動から、地域で協働の輪が広がっている大玉村。学校、家庭、地域のつながりは着実に深まっています。この10年間で培われたコミュニティ・スクールの土台は、未来に向けてどのように生かされていくのでしょうか。

異年齢交流を行う子どもたち(公式サイトから)
異年齢交流を行う子どもたち(公式サイトから)

ーーコミュニティ・スクールを通して、子どもたちの活動が発展したり、幅が広がっていったものはありますか。

橋本
:ひとつは、おおたま学園の交流事業として実施している「おおたま・オータム・フェスタ」。学校・校種をこえて、さらに地域の方も関わりながら、体験活動を行うイベントです。昔遊びや安達太良山の登山、ミニ運動会などに取り組んでいます。
体験活動を通して、「大玉の教育の良さを実感できる場」を目指して、毎年ブラッシュアップしていますね。

渡邉:最近、総合学習として教育委員会に子どもたちがコミュニティ・スクールについて取材にきたんです。取材中に、コミュニティ・スクール委員会で大人たちが話し合っている様子を撮影したビデオを見せたところ、子どもたちから

「自分たちのことについて、地域の方も入って大人たちが真剣に考えてる」
「学校のことは校長先生だけが決めると思ってた」
「地域の方もいろんな意見があって、話し合って、最終的に決まっていくんだとわかった」

という感想がどんどん出てきました。
その後、「この話し合いに混ざりたい人は?」と聞いたら、ほとんどの子どもが手をあげたんです。コミュニティ・スクール委員会を、“子どもたちの意見も交えた場”として広げていけたら・・と構想しています。

ーーそれが始められたら全国でも先駆けとなりそうですね。

橋本:実際、前段のような形で、各学校の子どもたちの発表の場を作って、地域の方に見てもらったり、地域の方と一緒に体験するイベントも実施しました。

子どもたちが最近の取り組みを発表して、地域の方と子どもたちが「できることは何か」などを話し合う。「大玉村の未来を考えて提言しました」「それに対して次に可能なものは?」といった具合です。

もちろん学習活動の一環なので、すぐに実現するのは難しい面もあります。しかし、村長や村議会議長も参加し、話し合いの内容などを聞いてもらうんです。
村長からは「実現可能なものは取り組むように!」というコメントもあったりして。

「子どもたちも地域の1人として村に関わっている」「村はこういう風に作られているんだ」と、感じられる。地域にとっても子どもたちにとっても、良い活動になっていると実感しています。

ーー今後、コミュニティスクールとしての新たな構想などはありますか。

渡邉:大人が学校に対して関わっているのを見て、子どもたちが育ってきますよね。地域の方は、一生学校に関わることでさまざまなことを学んでいます。その姿を見て、子どもたちは「大人になったら、あんな風に学校に関わるんだな」「生涯を通して学ぶということはすごく大切なんだな」と、体感していく。

最終的に、生涯を通して学び続けることで、「人間として豊かになる、豊かな生活につながっていく」ーーその姿を間近で見られることが、コミュニティ・スクールの良い面なのかな、と思っています。

橋本:単なる制度上としてのコミュニティ・スクールではなく、子どもたちの成長とともに育ち、当初掲げた理想に近づく組織になっていければと思います。その姿を発信していくことで、教育も大玉村の魅力のひとつとして「大玉村に行きたい」「応援したい」という人が増えてくれれば、非常にありがたいですね。

人口減少社会の中、福島県一人口増加率が高く、14歳以下の年少人口比率が高い大玉村には、地域全体で子どもたちを支え、育て、自分たちも育つ、そんな循環が浸透していました。
「大玉村の魅力って、自然に恵まれた景観はもちろん、自由に自分の気持ちを素直に表現できる子どもが多いことなんです」しみじみと語る橋本さんの言葉に、これから社会に羽ばたいていくであろう大玉村の子どもたちの未来を想像しました。
「小さくても輝く大いなる田舎大玉村」という村のキャッチコピーのとおり、大玉村の輝きはいつまでも続いていくでしょう。

プロジェクト情報

大玉村教育委員会
〒969-1302
福島県安達郡大玉村玉井字西庵183
(大玉村農村環境改善センター内)
TEL 0243-48-3138
FAX 0243-48-3493

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