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大玉村から愛を込めて育む、あだたらドリームアグリの米づくり

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大玉村から愛を込めて育む、あだたらドリームアグリの米づくり

大玉村事業者の想い

文:高木真矢子 写真:飛田亜久里(あぐり)
 
福島県安達郡大玉村、美しい安達太良山のふもとに位置するこの村は、豊かな緑と豊富な水源に恵まれています。この地で水田耕作を中心に大規模農業に取り組む、農業法人 あだたらドリームアグリ株式会社。持続可能な農業と地域社会への貢献を通じて、地域に新たな風を吹き込んでいます。会社の中心を担う、古川沙織さんと斎藤恵美さんにお話をうかがいました。

大玉の原風景を守り、自立した農業を。集落営農組合からの法人化

左:斎藤恵美さん 右:古川沙織さん
左:斎藤恵美さん 右:古川沙織さん

あだたらドリームアグリ株式会社(以下、あだたらドリームアグリ)は、大玉の原風景を維持しながら地域の農地農業を守り、自立した農業の確立を目指して設立されました。主な事業は水田耕作ですが、自己販売の拡大や米を主原料とする加工品の開発・販売も進めています。
 
ーーまずはここまでの歩みを教えてください。
 
古川:あだたらドリームアグリのある谷地(やじ)地域では、以前から農業従事者の高齢化や後継者不足、地域の農業環境や米価への課題を感じていました。
 
「みんなが立ち行かなくなってからでは間に合わない・地域の農地を活用し守り抜こう」ーーそんな思いから、谷地地域では2007(平成19)年から、村・県などの指導協力をいただき、集落営農組合を設立していたのです。
 
集落営農は「集落」単位で農業を営むこと。専業・兼業に関わらず、集落にいるすべての農家が協力しあい、共同で農業生産過程に取り組む組織です。組合には期限があり、満期を迎えるタイミングで今後について話し合った際、代表の斎藤が「法人にしよう」と、2015年(平成27年)10月に「あだたらドリームアグリ」を立ち上げました。
  
斎藤:私たちは法人の立ち上げから関わり、米の生産・販売などを手がけています。

古川:現在は40ヘクタールの農地で米の栽培を行っています。
4月下旬から6月上旬までが田植え。田植えが終われば草刈り、そして水の管理です。
 
水管理は6月中旬〜7月の約1カ月かけて、田んぼに溝をつけ水の流れをつくります。さらに夏の間は除草作業や追肥、水の管理が続き、9〜10月にようやく稲刈りです。

ーーあだたらドリームアグリで生産されているお米の特徴やこだわりを教えてください。
 
斎藤:特別栽培米の生産に取り組んでいます。特別栽培米は農林水産省が定めた「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に沿って栽培するお米で、農薬や化学肥料の使用を抑えた栽培が特徴です。
 
主に、コシヒカリ、天のつぶ、こがねもちなどを生産しています。
 
お米は毎日食べるもの。子どもが食べても安心安全なものをつくり、食べた人には元気いっぱいでいてほしい。そんな母親のような、女性ならではの思いがたくさん詰まっています。
 
古川:さえぎるものが無い平地に降り注ぐ太陽の光と、 安達太良の雪神様の恵みとも言える名水。自然の恵みをいかした米づくりがおいしさの秘訣です。
 
 
大玉村特有の気候や土壌が生み出す、味わい深く粘り強い。あだたらドリームアグリのお米は、消費者にも高く評価されています。その品質は「JAふくしま未来 おいしいお米コンクール」で、総合の部・最優秀賞などを毎年受賞しています。

マイナスからのスタート。燃え尽きても前を向く

2015年に設立されたあだたらドリームアグリですが、2011年に起こった東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の影響は、尾を引いていたといいます。
当時、地域の田んぼの天地返し※が行われ、米の単価も大きく値を下げていました。
 
※天地返しとは、表面の土壌を少し深い場所の土壌と上下逆に入れ替えること。
 
 
ーー2015年のスタートからここまで、大変だったことはありますか。
 
古川:法人化して初めての年は大変でしたね。それまで私たちは、田んぼは手伝い程度の関わりだったのが、いきなり30町歩の大規模農業に。田植えが終わった後、燃え尽き症候群になるほどでした。
 
斎藤:水の管理も初めてで、田んぼに水が来なくて困った時には、近くの農家さんに水路の場所や使い方などを教えてもらいました。
 
古川:最初の年はもう経験ですよね。 代表や専務にも教わりながら、なんとか1年目を終えました。

当初ははじめてだらけだったというお二人。今ではフォークリフトも扱えるようになったといいます。
当初ははじめてだらけだったというお二人。今ではフォークリフトも扱えるようになったといいます。

斎藤:作業面での大変さもありましたが、お米の値段が落ちていたことも、課題のひとつだったんです。良い時を知っている人たちからは「お米の値段が安すぎる」という声をよく聞いて。良い時を知らない私たちでも、さすがに安いだろうと感じるほどでした。
 
古川:「どうにかして売ろう」と、2人で販売に力を入れたんです。
 
ーー具体的にどんな工夫をされたんですか。
 
古川:農作業しながらの営業は難しいんですけど、新米の時期に合わせてチラシを作ってポスティングしたり、東京までPRに出向くこともあります。
 
斎藤:毎年浅草寺で大玉村が物販をする機会があるんです。その時にもお米の紹介をしました。そこでのご縁から、お米の納品につながったケースもあるんですよ。
 
古川:受賞も後押しになりましたし、同年代の農家仲間とも協力しながらやってますね。
ありがたいことに、継続して購入してくれているお客さんもいます。

ひび割れる田んぼで痛感した自然の厳しさ

震災の影響が残る中でのスタート。再び地域の農産物への信頼を築き上げることは、容易ではありませんでした。そうした中でも、前向きに努力を積み重ねたあだたらドリームアグリ。しかし近年の猛暑には頭を悩ませていると言います。
 
ーー 今年も異常気象のような天候が多かったですね。ここ数年の気候の影響などはいかがですか。
 
斎藤:夏の高温の影響は大きいですね。天気には勝てません。
 
古川:そう。何をしても勝てません。
気温が高過ぎると、「乳白」と言って米が白くなる高温障害が発生するんです。カメムシも増えます。雨が降らず水がなくなると、稲も枯れてしまいます。
 
斎藤:2018(平成30)年の話です。雨が降らず、水路にも水が来なくて、川にも水がない。どこから水をあげようか?と右往左往していたら、稲が枯れてきてしまって。
 
古川:田んぼのひび割れも半端じゃなくて、普通に歩けるぐらいカッチカチでした。
 
斎藤:「本当にどうにもできないって、こういうことなんだ」と痛感しました。雨乞いをしていた昔の人の気持ちが初めてわかりましたね。

古川:水のあるところからポンプであげようかと、色々試したもののうまくいかなくて。最終的には「通し水」といって水路の分水量を変えて上流に田んぼを持つ農家が水をかけず、下流の農地に水を一気に流す、という方法で解決しました。
 
斎藤:何十年もお米を作ってきた年配の方も「初めて通し水を使った」と言っていましたね。
 
古川:収量にも影響が出て、コンバインが壊れたんじゃないかと思うほど少なかったんです。田んぼ1枚で2〜3俵(1俵=60kg)くらい減ったように感じました。
 
 
ーー 大変な被害だったんですね。それ以降はそこまでの被害はありませんか。
 
斎藤:夏の気温上昇は、年々感じてますね。暑すぎて外で作業ができないくらいで、1日2リットル以上水分を摂ります。
 
古川:集落の田んぼを集積して面積が広くなるほどに、自然相手の仕事の大変さを痛感します。畑も田んぼも、自分たちの力だけではどうしようも出来ないことが起こります。自然相手の仕事の1番の難しさですね。

とはいえ、稲も生き物ですし、暑いからといって、私たちばかり水を飲んでる場合じゃない。大規模になっても品質は守るし、決して手は抜かない。私たちに共通している意識です。

ーー いろいろな困難がある中で、どう乗り越えてきたのでしょう?
 
古川:私たち二人だけはもちろんのこと、スタッフ間の会話も大事にしています。お互い慰め合ったり、気持ちを盛り上げたりしていますね。
 
斎藤:「今は苦しいけど、いつまでも続くわけがない」と。
 
古川:「楽しんでやろう」を心がけています。

省力化や最新技術の導入で持続可能な農業を次世代へ

自然の脅威にさらされながらも、あだたらドリームアグリでは、農業技術の革新にも取り組んでいます。企業理念である「調和・探求・信頼」の中でも信頼関係に重きを置き、関わる人全てに思いやりを持ち、進化し続けることを大切にしていると言います。
 
古川:常に時代に合わせて変化し、進化することを心がけています。私たちもスキルアップが必要ですし、新しいものは取り入れていこうという姿勢です。
 
ーー 具体的にはどんなものがありますか?
 
古川:機械化に加え、省力化や低コスト化、労力軽減などが叶う「密苗(みつなえ)」も導入しています。来年度は農業用ドローンでの肥料散布も計画しています。
「いかに効率良く、おいしいものを作るか?」工夫してさまざまな情報を取り入れています。
 
斎藤:その時々で、常にベストを尽くしてますね。
 
古川:そうなんです。昔から受け継がれてきた基本的な技術などは大事にしつつ、現代のより良い方法をどんどん取り入れる姿勢ですね。

常に探求し続ける あだたらドリームアグリの姿勢は、専門業者などからも注目されています。さらに地元の学校と連携し、子どもたちに農業の重要性と楽しさを教える活動も。イベント出展なども積極的に行い、地域内外での絆を深め、農業への理解を図っています。
 
ーーSNSで小学生の田植え体験の様子などを拝見しました。
 
斎藤:設立時から継続して、地元の小中学生向けに農業体験を実施しています。
 
古川:視察や農大生の受け入れも行っていますし、研修会などにも参加しているんですよ。
 
ーー挑戦し続けるお二人の原動力はどんなところにあるのでしょうか。
 
古川:1番はやっぱり、「お米おいしいね」って言われることですね。
 
斎藤:「あだたらドリームアグリのお米しか食べられない」と言ってくれる人もいて。
お子さんがあだたらドリームアグリ以外のお米を食べた時、「今日エミちゃんのお米じゃないよね」と言っていた・・なんて話を聞くと、頑張ろうって思いますね。
 
 
ーー 改めて今後の目標を聞かせてください。
 
斎藤:とにかく続けていくことですね。せっかく立ち上げた法人だから、もっとたくさんの人に私たちのお米を知ってもらって、食べてもらいたいですね。
 
古川:私たちだけじゃなく、若い世代にも繋がる体制を整えなきゃいけないし、農業を楽しめるようにしていきたいですね。この会社を未来に繋げたいです。
 
農業はずっと私たちの暮らしのそばにあるもの。
誰かに喜んでもらえる米づくりをこれからも続けたいですね。

集落営農組合から法人化を実現した、あだたらドリームアグリ。地域農業の新たなあり方を示すだけでなく、持続可能な社会の構築に向け一歩ずつ進んでいます。その行動力と深い愛情は、これからの農業の可能性を広げ、農業と地域社会への希望を育み、未来への架け橋となることでしょう。

会社情報

農業生産法人 あだたらドリームアグリ株式会社
〒969-1301
福島県安達郡大玉村大山字谷地112-3
電話番号:0243-48-4608

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