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厄介ものが地域を救う? 自然エネルギーに懸ける街の未来

稚内市プロジェクト

文:立花実咲 写真:原田啓介

「風さえ無ければね」。
稚内市に長く住んでいる人ほど、そんなふうにおっしゃるそうです。学校の運動会やお祭りではテントが吹き飛んだり、お弁当が散らかったり。屋外を楽しむのがままならないほどの強い風は、稚内の特徴でもあり、常に悩みの種でした。
今までは厄介ものだった風。これからは地域の未来を救う、最後の手段になるかもしれません。

風力発電がもたらす効果とは

稚内市では風力、太陽光、そしてバイオマスの自然エネルギーを活用しています。

2005年、COP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で京都議定書が発効されたのをきっかけに、地球環境の負荷を軽減することと地域の活性化の、両面にアプローチしてきました。

中でも風力発電は、なだらかな丘陵に、潮風を受けて回る風車によって電気がつくられるもの。そののびやかな風景は観光資源の一つにもなっています。

稚内市環境水道部環境エネルギー課課長の市川正和さんに、街の取り組みをうかがいました。

市川:稚内に初めていらっしゃったとのことですが、風は強いなと感じられますか?

── 昨日風車を撮影に行った時は、強いなと感じました。

市川:日本海側は、7月から9月ごろは、風が弱くなる日が多いんです。だから普段はこんなものじゃないくらい、風が強いんですよ。

稚内市では2003年に環境基本条例が制定されましたが、それより前、地球温暖化や再生可能エネルギーが話題に上がり始めた1995年から1996年に、風況調査をおこないました。

「風が強い」と言われますが、実際どれくらいなのか、再エネとして風は利用できるのかを調べたんですね。そうすると地上20メートル地点での、年間平均の風速が7メートルでした。この数値を公表すると、風力発電事業をやりたい人の応募が殺到したんです。

稚内市の風車は、民間と行政のものを合わせて83基あります。ここで作られる電力は、市内の年間消費量の120パーセントに相当します。

── すごいですね! 風力発電で街の電気がまかなえるくらいなんですね。

市川:市が動かしている風車は3基ありますが、年間約300万キロワット発電しています。そのうち60万キロワットは電気として使いますが、残り240万キロワットは売電します。

すると約5,000万円の収入が得られます。風車を導入する前と後では、約3,000万円の電気代が節約になり、つまり、合わせて8,000万円の経済効果があるんです。

2018年、北海道全体がブラックアウトした日

暮らしへの経済効果はもちろん、クリーンなエネルギーは街のイメージアップにもつながります。地域の人々は、風力発電に関してどんな思いを持っていらっしゃるのでしょうか。

── 節電効果などを考えると、住民に対してもありがたい部分が多いように感じますが、地元の方々はエネルギー事業に対してどういう印象をお持ちなのでしょうか。


市川:「稚内は風車の街だから少しでもその風景を盛り上げたい」と、ご自分で風力発電を導入する方や事業者さんもいらっしゃいます。行政としては、そういう取り組みは進んで応援しています。

ただ一方で、風力のことをもっと市民の方々に理解していただけるようにしなければ、とも思っています。

── それは経済効果以外の理解を促す、ということでしょうか。

市川:2018年に胆振東部地震がありましたよね。あのとき、全道ブラックアウトという異例の事態に陥りました。

市川:停電しているとき、地域の方から「停電したなら風車を回せばいい」という声をいただきました。ですが、風車で発電した電気は、既存の電線を通って地域へ供給されます。実際は市内で発電された電気を使っていても、同じ電線を通る電気に違いはないので、地域内で電気が回っているイメージがしづらいんです。

電気に色がついているわけでもないので、稚内市内の風力で発電された電気と、他の電気で明確に区別することはできないんですよね。

市川:各風車からそれぞれの住宅や施設に電線を引いて、直接電気が配給されているように見せられれば良いのですが、その電線は、1キロ作るのに3,000万円くらいかかります。

しかも、風力発電は風の強弱によって、作られる電気にムラがあるんです。昔のアニメなんかで、電球がついたり消えたり、光が強くなったり弱くなったりするのを、見たことありませんか?

── あります。風の強さによって電気の強さが変わるんですね。

市川:そうです。今は、ご自宅で使う電気ですとスイッチを入れればずっと安定して同じ明るさですが、風力で発電された電気は不安定なんです。

それに電気は貯蓄できないので、風車が回る限り配電し続けなければいけません。けれど地震で配電機能が停止してしまいました。さらに、一度止まった風車を回すためには起動用の電力が必要なんですが、ブラックアウトにより、その電力を失っていました。そのため、街の方々は「風車があるのに電気が作れない」と疑問だったのだと思います。

私も稚内出身なので分かるんですが、地元の方はよく「風さえなきゃね」と言っていました。それくらい強いんです。外で視察対応をしたりイベントをしたりしても、資料が飛んで行ってしまったり声が届きにくかったりして、なかなか成り立たちません。

でも、今では風は最強の武器だと思っています。あのブラックアウトを機に、緊急時や災害時にエネルギーを使える環境を整えて、風車の市民権を得ることが必要だと感じました。同時に、再生可能エネルギーの重要性が、ここ数年、世界的にもますます増していると感じます。

“災害に強い街”であり続けるために

エネルギーの地産地消を目指して、稚内市では自立・分散型エネルギーシステムを作り上げるために、動き始めました。2021年度中には、地域の電力を売買できる、エネルギー会社の設立を目指しています。

市川:北海道庁の補助金の採択を受けて、エネルギーが地域で循環できる仕組みを整える準備をしています。

エネルギーマネジメントシステムという仕組みを導入して、公共施設への電力自己託送をおこないます。

また、地域エネルギー会社を立ち上げ、再生可能エネルギーを地産地消できる仕組みを構築しようと考えています。そうすることで、住民の方々が今より安い電気が買えるようになったり、以前のようなブラックアウトが起きても施設や住宅に配電できるような仕組みができるのでは、と思うんです。

提供:稚内市役所
提供:稚内市役所

市川:稚内では風力以外に、太陽光とバイオマスエネルギーも導入しているので、これらの再エネもエネルギー会社で扱えるようにしたいと考えています。もっと先になると思いますが、再エネ由来の水素も活用できればと思っているんですけどね。水しか使わないですし、環境負荷も少ないし、持ち運びができるようになるので……。

── もし実現したら、とても先進的ですね。お話を聞いていても、これからの暮らしに対応したインフラとして、すごく可能性があるなと感じます。

市川:うちの地域だけができることには限界はあります。ですが、環境に配慮することは街の生き残りのためでもあるし、個人的にも南極へ行った経験があるから、やっぱり環境問題が気になるんですよね。

── 南極へ行かれていたんですか?

市川:南極昭和基地で1年と4ヶ月、仕事をしていました。南極へ派遣されていた樺太犬が稚内で生まれた犬という縁があって、もともと人の行き来があったんです。行政の人間で、南極へ派遣されたのは、私が2人目でした。ですから、今年の北極や南極の氷の解け方を報道で見たり聞いたりしていると、他人事とは思えないんです。

稚内は災害が少ない街という特徴が売りですが、そう言えるのもどれくらい続くか分かりません。例えば、稚内では現状、お米は採れません。日本最北の稲作地域は稚内から車で一時間くらい南下した、遠別町と言われています。ですが、市内でもお米が採れるようになったら、それくらい気温や湿度が上がったということ。気候も変わり、災害は日常化するかもしれないと思っています。

だからこそ、何もしないわけにはいかない。今は2030年や2050年を見越して、できることからチャレンジすべきタイミングだと思っています。

筆者も北海道在住で、2018年のブラックアウトを経験しました。真っ暗な部屋でろうそくの明かりを見ながら、電気はどこから来ているのか、誰がどのくらい使っているのかなど、エネルギーに対する関心がじわじわと高まっていったのを覚えています。
環境問題は、ますます見て見ぬふりができなくなる分野。その課題に正面から向き合う稚内市の挑戦は、これからの地域のあり方の、ロールモデルとなるかもしれません。

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