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ほっこり甘い「勇知いも」の起死回生と未来へ続く物語|わっかない勇知いも研究会

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ほっこり甘い「勇知いも」の起死回生と未来へ続く物語|わっかない勇知いも研究会

稚内市事業者の想い

文:立花実咲 写真:原田啓介

稚内市には、日本最北のじゃがいもがあります。

たっぷり含んだデンプンのはたらきで、ほっこり甘く、スイーツにも使われている「勇知いも」です。

かつては高級品として珍重された「勇知いも」ですが、地の利や災害に強いという理由で酪農家が急増したため、1972年に生産が途絶えてしまいました。ですが、ありし日の名産品復活に向けて、熱い思いを持つ地元の名士たちが、2008年に動き始めました。

異業種の仲間とともに遂げた復活劇に加えて、注目が集まるからこそ生まれる葛藤をお話してくださったのは、「わっかない勇知いも研究会」大硲秀男会長と菊池工副会長です。

高級品だった「勇知いも」

「勇知いも」のはじまりは、大正13年にまで遡ります。当時、現在の稚内市に鉄道が敷かれ、本州との物流が便利になり、勇知で作られたジャガイモを大阪に届けたところ、大ヒット。一流ホテルや高級料亭で使われるジャガイモとなったそうです。

大硲:ある勇知の商店では、イモを一つひとつ和紙で包んで、木箱に並べて出荷したこともあると聞いています。当時は高級品で、近隣の地域で作ったイモを「勇知いも」と偽装して出荷していたこともありました。それくらい、ブランドとして有名だったんです。

菊池:「勇知いも」の特徴は、なんといってもその甘味です。
勇知地区で作られたジャガイモを「勇知いも」と呼んでいて、品種は男爵やきたあかり、インカのめざめなどがあります。そのどれも、デンプンの含有量が北海道平均を上回っているんですよね。

ーー​​​​​​​どういった環境が影響しているんでしょうか。

菊池:風が強く降水量も少ないので乾燥していて、冷涼な気候のため、ジャガイモにストレスがかからないんです。

デンプン量が多いことで甘さが増します。市内のお菓子屋さんが「ポテラーナワッカナイ」という焼きプリンアイスに「勇知いも」を使ってくださっているんですよ。

ポテラーナワッカナイ(写真提供:わっかない勇知いも研究会)
ポテラーナワッカナイ(写真提供:わっかない勇知いも研究会)

大硲:最初は高級品だったんですが、偽物の「勇知いも」がたくさん出回ってしまい、品質も不安定になって、だんだんと衰退していきました。

1972年に完全に生産がストップする頃には、自宅で片手間で作る人はいましたが、農家として「勇知いも」を作る人はいなくなってしまったんですね。

付加価値を与えて「勇知いも」復活!

大硲:私は酪農家ですが、自分の畑で「勇知いも」を作っていたから、農家を集めて「スキルドポテト集団」というチームを作りました。稚内が日本の北限の畑作地域ですから、そのシンボルでもある「勇知いも」を復活させたくて、本業の合間に作り始めたんですね。だけど、忙しいし売り先も持っていないから、活動を継続できませんでした。

そんな時に、新しく「稚内地産地消研究会」が立ち上がりました。2008年のことですね。

菊池:その少し前、2005年に北海道と北海道大学、それから稚内市が共同して、⾃然冷熱利⽤施設(氷雪貯蔵)を活⽤した実証実験をスタートさせました。

菊池:風が強い稚内の気候を利用して、冷風で水を凍らせ、いわゆる大きな冷蔵庫を作り、農作物や水産物を保存する実験です。90パーセント前後の湿度と、室温を5度に保ち、品質や糖度の変化を検証しました。

すると、半年ほど低温貯蔵することで「勇知いも」の糖度が8度から12度まで上がることが分かったんです。これは、みかんやスイカの糖度に匹敵します。自然エネルギーを活用して「勇知いも」の品質をキープできるということは、ブランドとしての付加価値になると思いました。

コンテナをつなげて手作りした倉庫
コンテナをつなげて手作りした倉庫

大硲:2013年には、「稚内地産地消研究会」が「わっかない勇知いも研究会」に改称されて、より本格的に「勇知いも」の復活を進めていきました。

研究会のメンバーには、農業法人もいますが、土建屋さんや水道屋さんも入っています。私が「スキルドポテト集団」を立ち上げた頃は農家だけでしたが、研究会では農家だけでは網羅しづらい機動力を持って取り組めるようになりました。

菊池:研究会が本格的に始動してからは、「勇知いも」ブランドをしっかり確立するために、地域団体商標というものを取得しました。使用する農薬を減らして栽培しているため「YES!clean(北のクリーン農産物表⽰制度)」の認定もいただいています。

うれしいことに、札幌や東京のホテルやスーパーからも「買いたい」とお問い合わせをいただく機会が増えました。

ファンが増えるなかで生まれた悩み

「勇知いも」は、その歴史と特有の甘味から、南は鹿児島、北は岩手までファンを持っています。自治体同士のコラボで焼酎を作るなど、貪欲にチャレンジするなかで、ジレンマを感じることもあるそうです。

ーー​​​​​​​地の利を活かし、新たな形で復活した「勇知いも」、すごく可能性があるように感じますが、現状ぶつかっている壁だとか、挑戦していることはありますか?


菊池:最近だと、2019年から仕込んでいた焼酎が完成しましたね。

ーーどういった焼酎なんでしょうか?

菊池:鹿児島県枕崎市の、薩摩酒造株式会社というところに醸造をお願いしました。この薩摩酒造さんが作る薩摩焼酎が、日本最南端発の焼酎だということと、枕崎市と稚内市が友好都市という縁があり、「勇知いも」を使って製造していただきました。

300本の試作品を作る予定でしたが、製造に試行錯誤していただいて240本完成しました。本当は、これらをたくさんの市内の方々に試飲していただきたかったんですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、お披露目する機会が軒並み無くなってしまって。ですので研究会に関わる人たちと、ランダムで選んだ市内の一部の方に飲んでいただいて、アンケートをとってご意見を集めている最中です。

写真提供:わっかない勇知いも研究会
写真提供:わっかない勇知いも研究会

菊池:一方で、いま一番の悩みは、生産量を増やせないことです。
注文が入る量は、年間何百トンという量ですが、対応できる土地の広さを確保できていません。「勇知いも」を貯蔵しておく雪氷施設の広さも、20トンくらいしか置いておけないので、足りないんです。

ただ、これらはなんとかすれば増やせます。問題は、「勇知いも」を作る人がいないというところですね。酪農家として就農する方は、たくさんいるんですが。

大硲:いつも壁だらけだね、身動きが取れないくらい。欲しいって言ってくれる人に答えられないのは、悲しいですね。

ーー​​​​​​​お話をうかがっていると「勇知いも」を育てる人さえ現れれば、ますます幅が広がりそうですね。

大硲:最初は、ここまで来れるとは思ってなかったけどね。勇知で育てるイモとして、いろいろむずかしい条件もあるけど、我々が作ってきたこだわりを守りつつ、育ててくれる人が現れたらいいなと思います。

取材時に、菊池副会長から「勇知いも」に関する取り組みをまとめた冊子をいただきました。ページ数、170ページ以上の大作です。けれど、この冊子にもまだ掲載されていないストーリーがあるとのこと。
大正時代から連綿と続く「勇知いも」の歴史。一度は生産が途絶えたものの、人々の熱い思いによって、復活をとげました。まだまだ多くの可能性を秘めた北限の甘いイモは、これからどんな物語が展開されていくのか、目が離せません。

「稚内ブランド」のご案内

豊かな自然に囲まれた日本最北のまち・稚内市。
地域資源から生み出された名産品や文化、地域資源を「稚内ブランド」として認定し、国内はもとより海外へも地域の魅力を届けています。

こちらの記事でご紹介した「勇知いも」も「稚内ブランド」認定商品のひとつです。
「稚内ブランド」のWebサイトには、「これぞ稚内!」がぎゅっとつまった商品がずらり。
ロゴをクリックして、ぜひ併せてご覧ください。
 

記事ではご紹介しきれなかった、勇知いも生産の様子をこちらの動画でご覧いただけます。
稚内の雄大な畑で育つ勇知いもの様子を、わっかない勇知いも研究会の菊池副会長のコメントとともにお楽しみください♪
稚内市観光動画YouTubeチャンネル」では、「稚内ブランド」認定商品を多数紹介中です。

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