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興部町

パインランドデーリィが創る“人”が真ん中の酪農・畜産経営

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パインランドデーリィが創る“人”が真ん中の酪農・畜産経営

興部町事業者の想い

文:高橋さやか 写真:高橋洋平
 
たった1頭のホルスタイン牛から、2,000頭超を飼養する北海道トップクラスのギガファームへ。
 
北海道興部(おこっぺ)町で酪農畜産業を営む、有限会社 パインランドデーリィは、明治41年の創業以来、時代に合わせて変化しながら歴史を紡いできました。ロジカルと直感をかけ合わせ、事業を躍進させる5代目の松村 孟 (はじめ)さんにお話をうかがいました。

牛のこと以上に、人のことを考える経営

「私の悩みの95%は人で、5%が牛です」と、はにかんだ笑顔で語る松村さん。牧場経営で特に力を注いでいるのが人材だといいます。
 
松村:もちろん牛は大事ですが、牛を育てるのは“人”ですし、最終的に会社を創っていくのも“人”です。現在は6つの担当業務である搾乳・仔牛育成・繁殖管理・飼料製造・事務管理・食品製造販売のそれぞれにリーダー、サブリーダーを置いて、若い世代が中心となって活躍しています。
 
社員には「教わる側5・教える側5」と伝えていて、人が育つかどうかは、本人の力量と教える側の力量が50:50で相互に作用しているよと。
 
気持ちを汲み取るのが得意な人もいれば苦手な人もいる。それぞれの特性を生かしながら、相乗効果が生まれるような人材配置を考えています。その結果、長く働いてくれる社員が増え、手応えを感じています。
 
会社にできるのは就労環境を整えること。組織風土やスキルアップなどのソフト面は、社員の影響が強いなと思います。

ーー人材に力を入れるようになったのには、何かきっかけがあるのでしょうか?
 
松村:ずっと人のことで悩んできたんですよね。私が入社した2014年頃は、遅刻する社員も多く、雰囲気も良いとは言えず、人の入れ替わりも多い状況でした。ある時、他の牧場を訪ねた際に、小規模ながらも若い人が多くて、雰囲気の良さを感じたんですよね。
 
そこから採用の方針を変えて、極力若い人を採用するようにしてみました。そこから退職のスピードが少し緩み、2018年からは新卒採用も始めました。
 
ーーそこから会社の雰囲気もどんどん変わっていったのでしょうか。
 
松村:最初は8人採用しても、1年で半分が辞めてしまいました。
どうしてもミスマッチはあります。育てようとする側も新卒社員の育成に慣れておらず、互いに問題があったのかもしれません。ただ、辞める側の論理に合わせるのではなく、会社で1本決めた軸を貫く。人によっては厳しく感じるかもしれませんが、会社に合う人だけが残っていきます。
 
結果的に会社全体の雰囲気も良くなり、若い社員も育ってきました。それが2025〜2026年あたりですね。
 
ーーなかなか時間がかかりますね。
 
松村:かかりましたね。
常に試行錯誤しながらで、今の状態を予測できたわけではないのですが。
今は自慢できる人材ばかりです。

パインランドデーリィのHPより。松村社長自慢の社員のみなさん。一人ひとりがやりがいをもって働く雰囲気が伝わってくる。
パインランドデーリィのHPより。松村社長自慢の社員のみなさん。一人ひとりがやりがいをもって働く雰囲気が伝わってくる。

「酪農はロマンだ」進路を変えた経営者の言葉

酪農を“経営”の視点で捉え、人材の育成に注力してきた松村さん。祖父の代には100頭だった規模を2,300頭(育成牛含)にまで成長させました。松村さんが経営にそこまで熱意を注ぐ原動力となった出来事があります。学生時代、就職活動のタイミングで出会ったある経営者の言葉が、心に深く響いたといいます。
 
松村: 就職活動の際に、札幌の洋菓子製造会社「きのとや」の長沼社長(現・会長)にお会いしたんです。
 
その時に「松村くん、うちに入ってもいいけど、5年経ったら辞めて実家の酪農を継ぎなさい。酪農はロマンだよ」と言われました。その言葉がすごく印象に残ったんです。
 
経営者の言葉って深いなと感じて、経営に興味が湧き、内定をいただいていた北洋銀行に入行しました。さまざまな経営者の方と出会う機会がありますし、将来を見据えた時にその経験が必ず活きると感じたんです。
 
ーー銀行員時代の経験は、いまの経営にどうつながっていますか。
 
松村:企業融資や個人融資、資産運用などを経験して、「数字で経営を観る力」がつきましたね。経営って、気合いや根性だけじゃ続かない。どこで利益が出ていて、どこに無駄があるのか、数字から浮かび上がってきます。その基礎を銀行で学びました。

6年半・2店舗で銀行員としての経験を積み、興部に戻ってきた松村さんは、2014年7月に有限会社パインランドデーリィに入社しました。
 
ーー入社してまず取り組んだのは、どんなことでしたか。
 
松村:牧場の見える化です。
現場の数字を取る、整理する、比較する。
当時は記録も全て手書きでしたが、現場に初めてパソコンを導入して。乳量や生産効率など、さまざまなデータから現状を把握して、パインランドデーリィならではの“強み”を探っていきました。
 
ーー数字を見る中で見えてきた、パインランドデーリィならではの強みとは?
 
松村:アウトソーシングに頼らず、可能な限り自社で賄っていることが、強みかなと。
 
乳牛の育成も自社でやっていますし、飼料も自給しています。実は大規模牧場では乳牛も飼料も外部から購入してくるケースも多いんですよね。自社で育てれば、病気のリスクを抑えられますし、社員も牛の成長に一貫して関われる。コスト面だけじゃなく、やりがいにもつながっています。

酪農・畜産経営の可能性を拓いた、5代目の胸の内

パインランドデーリィでは、先代から取り組んできた生乳生産や乳製品の製造に加え、2015年にはバイオガス発電による循環型酪農をスタート。2019年からは黒毛和牛の育成にも取り組み、事業領域を広げています。
 
ーー松村さんが入社されてから事業の領域を拡大されていますよね。バイオガス発電や黒毛和牛の育成はどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
 
松村:バイオガス発電は臭気対策と、売電による収益化を見込んで。黒毛和牛は、利益の最大化と新たな産品の創出を目指してスタートしました。興部町は乳製品のイメージが強いですが、ふるさと納税ではお肉の需要が高いですから、乳製品と並ぶ商品として展開できたらと考えています。
 
ーー乳製品には、どのようなこだわりがあるのでしょうか。旨みゴーダチーズはALL JAPAN ナチュラルチーズコンテストで金賞を受賞していますよね。
 
松村:自社の生乳100%のバターやチーズを作っています。
お腹を壊しにくいと言われるA2ミルクを使用し、高い乳脂肪分を活かしたコクのある味わいが特徴です。自家育成ならではの味ですね。
手作業の工程が多く、手間ひまはかかりますが、改良を重ねて高評価をいただいています。

パインランドデーリィが展開するチーズとバター。口当たりが優しくコクのある味わいながら、後味が軽い。
パインランドデーリィが展開するチーズとバター。口当たりが優しくコクのある味わいながら、後味が軽い。

ーーさまざまな事業を展開されていますが、思いついたら即実行するタイプなのでしょうか。
 
松村:慎重ですね。銀行にいたからなのか、性格なのか、かなり慎重です。側から見ると、大胆に見えるかもしれないですが・・必ず裏付けがあって「絶対行ける」と確信したら、派手に実行する感じですね。
 
ーー裏付けというのは、数字の部分?
 
松村:そうですね。できる限りデータや情報を駆使して判断しています。コンサルタントの方から意見をいただくことも。
あとは第六感というか、「多分こっちの方がいい」と言う感覚も大事にしています。
 
ーー裏付けと直感とどちらも大切。
 
松村:直感も大切だと思ってます。
「運」って、きっと突き詰めた努力の先にあるものだと思うんですね。
もう少しで結果に手が届くか、届かないか。ーーその差分の努力を怠らないことが大事なんじゃないかなと思います。

一人ひとりが報われる、地域を支える存在へ

「慎重すぎるので、もっとスピーディーに色々なことに取り組んでもいいんじゃないかと思うんですよね」と語る松村さん。自社の価値を高めながらも、この先に見据えるのは、まち全体の価値を高めることです。
 
ーー気候の影響や担い手の減少などの課題を耳にしますが、今後の酪農・畜産経営についてはどう考えていますか。
 
松村:興部のような地域では、酪農が弱ると地域そのものが弱ってしまう。離農が進めば、コミュニティの維持も難しくなります。小規模農業を大きい法人が吸収するなど、法人がしっかり経営して、地域を支えていく必要があると感じています。
 
ーー最後に、今後の夢や目標を教えてください。
 
松村:今の倍近い4,000〜5,000頭規模への拡大をできる限り早く実現していきたいですし、社員の採用はこれからも続け、育てていきたいですね。さまざまな境遇の社員がいますが、努力は報われるべきだと思いますし、社長として見逃さずに汲み取っていきたいです。
 
努力すればするほど、自分の想像を超えた場所にたどり着ける。
 
その感覚を、私は何度も味わってきましたし、これからは社員にもそれを体感してもらいたいなと思っています。

穏やかな語り口からはじまった、松村さんへの取材。
 
銀行で学んだ数字の感覚を持ち込み、手書きだった牧場をデータで動く組織へ変え、人が育つ会社にしようと挑み続ける。言葉の端々から見えてきたのは、時に厳しく緻密に事業を組み立てる経営者の姿でした。
 
新しい時代に合わせて会社のあり方を変えていく。それが“経営”という営みなのだと感じました。
パインランドデーリィの躍進は続きます。

Information

有限会社パインランドデーリィ
〒098-1622
北海道紋別郡興部町字北興40番地

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