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移住者の施設から、みんなの居場所へ。白石市「109-one」が築く交流拠点

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移住者の施設から、みんなの居場所へ。白石市「109-one」が築く交流拠点

白石市プロジェクト

文:高木真矢子 写真:阿部一樹

移住してきたばかりの人も地域で暮らす人も、気軽に立ち寄りお茶を飲みつつ、誰かと話せる場所があったら——。

そんな願いから生まれた施設が、宮城県白石市にあります。白石市移住交流サポートセンター「109-one(トークワン)」。2018年5月、白石市の中心部にある商店街の一角にオープンしました。

109-oneで温かな場づくりを目指し奮闘する、移住交流コーディネーターの太斎沙織さんと阿部名央子さんにお話をうかがいました。

移住定住促進と交流人口の増加を目指して

築古の建物をリノベーションしてつくられた109-one。扉を開けると、囲炉裏のある和室、フリースペースとして使える洋室、事務スペースと温かな空間が広がります。まずは施設と活動内容について聞きました。

ーー109-oneはどのような施設なのでしょうか?

太斎:移住定住の促進と交流人口の増加を目的に、2018年5月3日にオープンしました。

名前の由来は住所の『109-1』から。109でトーク、1=oneでコミュニケーションを通じて一つになるという思いが込められています。

ーー現在の活動内容を教えてください。

太斎:移住希望の方からいただくご相談への対応が、主な仕事です。電話やメール、時には対面で、移住希望者の悩みを軽減できるようサポートしています。

移住希望の方が白石での生活を体験できる「お試し住宅」の管理や、東京圏で開催される移住フェアで白石市の魅力を伝えるのも、私たちの仕事です。

さらにワークショップやイベントの企画・実施を通して、交流人口の増加や、移住者と地域の交流を育む役割も担っています。

阿部:ここ数年では、白石高校の探究授業の一環として、高校生主催のカフェも実施しました。「地域に貢献する活動をしたい」という高校生の企画提案から実現したものです。

109-oneは単なる移住相談窓口ではなく、地域と移住希望者、そして地域内の様々な世代をつなぐ“ハブ”としての役割を担っているんです。

移住希望者一人一人と向き合う
移住希望者一人一人と向き合う

ーー活動の幅が広いですね。その中で、移住支援において特に大切にしていること、心がけていることはありますか?

太斎:移住は人生の大きな決断です。

仕事のこと、住まいのこと、子育てのこと、地域になじめるか・・

さまざまな不安を抱えている方々に、白石での生活を具体的にイメージしてもらえるよう、寄り添うことを大切にしています。

移住希望の方にとっては、私たちが「初めて会う白石市の人」。だからこそ「ぜひ来てください」という気持ちを込めて、お迎えしています。
 
阿部:気持ちが伝わるような「目に見える」工夫も欠かせません。

たとえば、お試し住宅を利用される方に用意している、手作りのウェルカムボードとお手紙もその一つです。利用される方のお名前を入れたり、外国の方にはその国の言葉で「ありがとう」と書き添えたり。お子さんが一緒なら、可愛らしいイラストを添えて。年配の方には白石城・・など、訪れる方に合わせて工夫しています。

お手紙には「また来てほしい」という思いを込めて。

たとえ白石を選ばなくても「良いまちだったな」と、心に残ったら嬉しいですね。

(左から)阿部名央子さん:白石出身のUターン。埼玉での就職やワーホリ経験後、地元で美容室開業を目指し2024年1月から勤務。太斎沙織さん:2019年横浜から移住。広島生まれ埼玉育ち、白石出身の夫と関東で出会い移住を決意。
(左から)阿部名央子さん:白石出身のUターン。埼玉での就職やワーホリ経験後、地元で美容室開業を目指し2024年1月から勤務。太斎沙織さん:2019年横浜から移住。広島生まれ埼玉育ち、白石出身の夫と関東で出会い移住を決意。

コロナ禍で途絶えた交流

移住希望者をはじめ、移住者、地域住民がつどい、地域との架け橋となっている109-one。開設当初は地域おこし協力隊2人と移住交流コーディネーター1人の3人体制でスタートしたといいます。太斎さんがスタッフとして活動をはじめたのは2020年のことでした。

ーーこれまでで大変だったことや、移住支援で難しさを感じた場面はありましたか?

太斎:私が働き始めた2020年は、ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大した時期でした。移住相談はオンラインに切り替わり、地域でのイベントは中止。それまで盛んだった移住者と地域の方の交流も断ち切られてしまって。

スタッフになって最初の半年間は、何も前に進まない状態でした。

ーー太斎さん自身も移住直後だったんですよね。

太斎:はい。2019年8月に白石に移住しました。

移住からわずか2ヶ月の10月、東日本台風に襲われ、新築した家の1階部分が床上浸水して・・。ようやく修復できた頃に、コロナウイルスの感染が拡大・・私自身、地域の方との関わりが一切なかったのです。

初めての土地で誰1人知り合いもいない。主人の家族だけが顔見知りという状況でした。不安、悲しみ、辛さ、楽しみなど、喜怒哀楽を共有できる瞬間が極端に減って。

大きな孤独を実感しました。

もとより単独行動は好きなタイプで、当初は「人との交流がなくても問題ないんじゃないか」と思っていたんですけどね。

移住当事者として地域をつなぐ仕事をしているのに、自分自身が孤立している。その矛盾がとても苦しかったですね。

「待っているだけでは何も変わらない」動き出した一歩

孤独と矛盾に苦しんだ太斎さん。抜け出すきっかけは、自身の決断でした。「待っているだけでは何も変わらない」そう思い立ち、自ら地域に飛び込んでいったのです。

太斎:もう必死でした。ここで待っているだけでは何も変わらない。自分から外に出ていこうと決め、公民館を訪問しはじめました。

ーーどうして公民館へ? 

太斎:地域を良くしようと活動している人に、話を聞きに行こうと思ったんです。何かヒントを得られるんじゃないかって。白石市内の小原公民館をはじめ、越河公民館など各地を訪れました。

どの公民館でも「地域を良くしよう」という、熱い思いを持った人たちに出会いました。誰もが経験したことのないコロナ禍にあっても、前に進もうとする姿に励まされて。「止まっていられない、私も頑張ろう」と思えたんです。

今こうして私が前を向いていけているのは、あの時出会った皆さんが私を支えてくれたから。だから今度は、その分を恩返ししたいという思いで活動しています。

ーーそうした活動の中で、変化も生まれてきたのでしょうか?

太斎:はい。109-oneの前を通る人の気持ちが和むように、花を植えたいと思ったんです。でも私にはお花の知識がなくて。

越河公民館の方に相談したら、講師の方をご紹介いただきました。越河地区の方も力をかしてくださり、2023年花植えワークショップを開催できました。
 
この花植えワークショップが、太斎さんと阿部さんの関係を大きく変えていくことになります。

太斎:ワークショップの時に手伝ってくれたメンバーの一人が、阿部さんだったのです。

阿部:当時、私は保険の営業をしていて、109-oneにも月1回来ていました。偶然ワークショップの話を聞いて、太斎さんが一人で大変そうだったので、手伝うことにしたんです。

ーー手伝いに来てくださった阿部さんと、一緒に働くようになったきっかけは何だったのでしょうか?

太斎:ワークショップの当日、阿部さんがガーデンピックの試作品を持ってきてくれたんです。「太斎さん好みだと思って」と。まさに私好みで、「相手の気持ちを先読みできるこの人と、一緒に働きたい!」と思いました。

阿部:109-oneの雰囲気から、太斎さんの好みをイメージして作りました。

太斎さんがスタッフになって、109-oneが変わったのを傍目に感じていたんです。オープンな雰囲気になって、ワークショップのポスターも見かけるように。太斎さんが地域の皆に受け入れられる今の109-oneを作ってくれた。だから、一緒により良い場にしていきたいと思ったんです。
 
移住支援や地域交流の成果は数字だけでは測れません。それでも、二人は着実に人と人とのつながりが生まれている手応えを感じています。

真逆という二人の性格。慎重派の太斎さんが企画を練り込み、行動派の阿部さんが実行に移す。理論と実践、計画と柔軟性が生きる最高のコンビになり、109-oneの強みになった。
真逆という二人の性格。慎重派の太斎さんが企画を練り込み、行動派の阿部さんが実行に移す。理論と実践、計画と柔軟性が生きる最高のコンビになり、109-oneの強みになった。

移住者も地域の人も、みんなの「109‐one」へ

こけしや白石和紙などの伝統文化を持つ白石市。近年は途絶えた白石和紙を復活させる活動も始まっています。移住者である太斎さんは「地域文化は人々の絆の証」だと実感しているそう。一方、Uターンの阿部さんは「都市部を経験したからこそ分かる、星や月がきれいに見える暮らしの良さ」を再発見。二人の異なる視点が、移住希望者へ伝える魅力のひとつとなっています。
 
ーー移住交流コーディネーターとして活動する中で、喜びを感じる瞬間はどんな時ですか?

太斎:活動開始から1年半ほど経った頃、地域の方から「ここは地域にとって必要な施設。あなたがいて良かった」と言われた時は、本当に嬉しかったです。

実は活動を始めた当初は、「あそこって移住者の施設でしょ」と地域の方に言われることも少なくありませんでした。「移住交流サポートセンター」という名称から、地域の人は使えない施設だと思われていたんです。

ワークショップの開催など、少しずつ活動を広げるうちに、地域の方も気軽に立ち寄ってくれるようになりました。「ちょっとお茶飲んでいい?」「イベントの打ち合わせに使いたい」と。

移住相談者が実際に移住して、交流イベントを企画してくれたり。ワークショップで出会った人同士が交流を続けていたり。そんな人と人とのつながりを耳にすると、この仕事の意味と価値を実感します。

ーー今後移住サポートをどう盛り上げていきたいか、展望はありますか?

太斎:ワークショップを現在の年6回から月1回に増やし、地域の方と移住者が自然につながる機会を作りたいです。また、首都圏の移住フェアでは20〜30代の若い世代にも、白石の魅力をアプローチしていきたいですね。

阿部:私は高校生と地域の年配の方が一緒に何かを作るワークショップなど、世代を超えた交流ができる企画を実現したいですね。

ーー最後に、109-oneをどんな場所にしていきたいか教えてください。

太斎:109-oneは地域の人たち、関わってくれる人たち、相談者の方々、みなさんと共に作り上げている施設です。

過去の私のように『交流など必要ない』と感じている人にも「人と関わることでしか得られない幸せがある」ことを伝える拠点でありたい。

これからもみんなの109-oneとして、育てていきたいです。

取材を終えて施設を後にする時、ふと振り返ると、太斎さんと阿部さんが笑顔で手を振ってくれていました。その姿に、109-oneの本質を見た気がしました。

一人ひとりとの出会いを大切にし、心を込めて向き合う。

当たり前のようで難しいことを、二人は日々実践しているのだと、強く感じました。

移住者の施設から、みんなの居場所へ。109-oneはこれからも進化していきます。
すべての人にとって開かれた場所を目指して。

109‐one(白石市移住交流サポートセンター)

〒989-0243 宮城県白石市東小路109-1
 TEL:0224-26-6201
 開館時間:10:00~17:00(火曜・水曜定休)、年末年始休館(12/28~1/4)
 施設利用:2時間200円(Wi-Fi、電源完備、飲食持ち込み可)

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