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白石の実りをおもしろく。一般社団法人みのりが育む地域の希望

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白石の実りをおもしろく。一般社団法人みのりが育む地域の希望

白石市事業者の想い

文:高木真矢子 写真:阿部一樹

2017年5月。蔵王連峰の麓、豊かな自然と歴史に抱かれた宮城県白石市に、一つの希望が芽生えました。「一般社団法人みのり」の誕生です。白石出身の有志が中心となり、レストラン運営事業「みのりキッチン」、食品加工事業「みのりファクトリー」、食品・水質検査事業「みのりラボ」の3事業を営んでいます。

ミッションは、地域の6次産業に貢献し、4方良しの幸せな関係をつくる。
白石に根ざし挑戦を続ける、一般社団法人みのり理事の遠藤尚子さんと「みのりキッチン」シェフであり社員の佐藤直人さんにお話をうかがいました。

地域の6次産業に貢献し、4方よしの幸せな関係をつくる

白石ICから車で5分。農商工連携を核とした、にぎわい交流拠点「しろいしSun Park」にある「みのりキッチン」。2020年5月にオープンした一般社団法人みのりが運営するレストランです。新鮮野菜やブランド牛・ブランド豚など、地元・白石産の食材を使った料理を楽しめます。

ほど近くには地域食材の1次・2次加工を手がける「みのりファクトリー」と、飲食店や農家向けに衛生検査や水質検査などを行う「みのりラボ」も併設されています。

ーーまずは一般社団法人みのりを立ち上げた経緯を教えてください。

遠藤:
一般社団法人みのりは、白石の食に関わる有志の「地産地消のレストランを作りたい」という思いが原点にあります。アトリエデリス 代表で初代の代表理事の料理人・佐々木文彦さん、みのりファクトリーグランシェフの桝澤明さん、竹鶏ファームの志村竜生さんなどが中心となって立ち上げました。

全員に共通していたのは、地域の「稔り」で、地域の「人」が「みのる」仕組みを作り、地域に人を残したいという思い。宮城県や白石市からの補助金制度を活用し、創業しました。

思いを同じくする仲間たちで立ち上げた、一般社団法人みのり。まずは地域食材の1次・2次加工を手がける「みのりファクトリー」から事業を始めました。
取り組んだのは、B級品のリンゴやイチゴ、ニンジンを加工したジャムやドレッシング、桝澤シェフ考案の地元食材を使った「蔵王山麓ハンバーグ」の開発です。


遠藤:白石には昔からこの土地でつくられてきた農作物などがあります。レストランだけでなく、これまでは捨てるしかなかったような、いわゆるB級品などを加工して6次産業も進めようと、ファクトリーやラボの事業も行うことになりました。

その背景として、一次産業である生産者、二次産業・三次産業である私たち、そしてお客さまと共に信頼し合える“四方よし”の関係をつくりたい。食を通じて地域の未来をつくっていきたい、という強い思いがあったのです。

ーー蔵王山麓ハンバーグは、ふるさと納税返礼品にもなっています。開発には苦労もあったのでしょうか?

遠藤:
まずはシェフ考案のレシピを使ってスタートしました。
おいしいハンバーグのレシピはあったものの、レストランで提供するのと、通販や店頭販売では気を配るべきポイントが異なります。安心・安全な商品をつくるにあたっては、苦労しましたね。
保存料、着色料、化学調味料不使用の食肉加工なので、食中毒などが起きないよう、商品の加工前後も温度管理をどうするか?冷凍か冷蔵か? 保管温度などを試行錯誤しました。

高温で長く焼くと、ハンバーグは固くなってしまいます。
そこで、職人が1つ1つハンバーグを成形してフライパンで焼き目がつくまで火を通し、フリーザーで一気に中心温度を5℃に。そこから真空パックに入れ、長時間じっくり低温で真空調理し、マイナス20℃のフリーザーで冷凍する、という方法で仕上げることになりました。

ハンバーグに火が入ったあと急速で冷凍するので、菌も発生せず、劣化も防げます。湯せんして、添えられたソースをかけるだけで食べられる商品ができました。

ーー保存や解凍もお客様にしていただくということで、完成までの試行錯誤があったのですね。

佐藤:
そうですね。さらにおいしく食べていただけるよう、今も少しずつ改良を重ねています。

翌2018年には、みのりラボも稼働を開始。白石での食のプラットフォームづくりは着実に進んでいきました。

ハンバーグは商品作りから 梱包やラベル貼りまで、一つ一つが手作業
ハンバーグは商品作りから 梱包やラベル貼りまで、一つ一つが手作業

コロナ禍でかかってきた一本の電話

2019年「みのりキッチン」はテイクアウト営業からスタート。2020年6月に満を持して来店型の店舗として正式オープンしました。
オープンから半年を超えた2021年1月のある日、遠藤さんは一本の電話を受けました。現在「みのりキッチン」で腕をふるうシェフ・佐藤直人さんからの問合せでした。

遠藤:ある日電話を取ったら「メールで問合せをした者なんですが、採用面接はしていませんか?」って。「何言ってるんだろう、この子は」というのが第一印象でした。

少し前に、当時製造依頼を受けていた「大豆のピクルス」と「採用」について、20代の青年からメールが来ていたことを思い出しました。白石市の出身で、私たちの取り組みに興味がある、という内容でした。ただ残念ながら当時は募集をしていなくて。

佐藤:僕は地元の白石高校卒業後、仙台の調理師専門学校に入学・卒業し、仙台の飲食店で8年働いていました。休日に直売所で地域の食材をリサーチするのが好きで、たまたま仙台市内で珍しい大豆のピクルスを見つけたんです。

「珍しい、どこで作ってるんだろう?」と、ラベルを見たら白石の会社だ!と。すぐに、みのりについて調べました。ウェブサイトやSNSを見て、「自分がやりたいことを形にしている人たちがいるなら、自分もそこに関わりたい」ーーそう思って、すぐにメールで問い合わせをしたんです。

遠藤:代表理事の志村さんに連絡すると「佐藤くんは白石の子だし、いいかもね」ということで採用が決まりました。

佐藤:問い合わせから1〜2週間後の2月くらいに志村さんから電話がきて、「社員で採用します」と言われました。勤めていた会社には、白石に帰ることを相談したら快く送り出してくれました。

僕はいつかは白石で食育など、食や地域に関わる活動ができれば・・という想いを抱いていたんです。みのりでは「地域の生産者が汗水流して育てた食材を活用し、美味しくカラダに良いものを食べてもらう、またSDGsや食育をキーワードに、食を通じて地域の未来をつくっていきたい」というミッションを掲げ、キッチン、ファクトリー、ラボと3本柱で事業に取り組んでいます。その点に共感し、自分もここに加わりたいと思ったんです。

着実に回り出した地域の「食」の循環

2022年4月、白石市出身の若者である佐藤さんが加わったことで、みのりは新たな転換点を迎えました。佐藤さんの参画は、みのりの掲げるミッションやビジョンをさらに具体化する大きな一歩に。佐藤さんは入社後、みのりファクトリーで約1年半、加工品の工程を学び、商品開発にも積極的に関わっていきました。

ーーみのりでは、どのような商品を製造販売されていますか?

佐藤:
ジャムやニンジンドレッシングなどの6次化の定番商品のほか、最近では農家の方と開発した「完熟トマトケチャップ」や、地元スーパーと開発した「仙台辛味噌鍋の素」があります。オリジナルの焼肉のタレや杏仁豆腐などもあります。

遠藤:春先にも栗原市の農家さんから「行者ニンニクを使った商品を作ってほしい」という依頼がありました。地元の事業者さんから「こういう商品を作ってほしい」と依頼を受けて作ることが多いですね。

ーー商品開発でのエピソードがあれば教えてください。

佐藤 :
商品開発では地産地消を掲げていて、できる限り地域色を出せるよう、取り組んでいます。試食は会社のさまざまな人に食べてもらい、意見を聞いています。

「仙台辛味噌鍋の素」の開発では、白石の森昭さんの仙台味噌を使いました。辛さも何パターンか用意し、食べ比べてもらって落とし所を決めました。ちょうどいいバランスが見えたところで、理事の桝澤シェフに試食してもらい、検査をして完成です。

遠藤 :商品開発のかたわらで、まだ課題もあるんです。新たな商品を作ることはできても、農家さんが抱える1番の課題は、販路をつくること。どこかで売ると言っても、農家さんだけでは営業の方まで手が回りません。

ーーそういう意味では、しろいしSunPark内にあるおもしろいし市場での販売や、みのりキッチンで料理に使うというのは、商品を知っていただくきっかけになっていますね。

佐藤:
また作ってほしい、とリピートが入ると嬉しいですね。最近だとケチャップがリピートになりました。大きな工場ではないので、多くても100〜200本ほどの納品ですが、逆にこのロットでも受けられるというのが、地域における食のプラットフォームとしても、良いことかなと。
白石の方だけじゃなく、近隣の自治体の方からも頼っていただけるというのはありがたいですね。

地域の事業者との連携や、小ロットからでも商品開発の段階から受け入れられる「みのりファクトリー」と安全安心をチェックする「みのりラボ」。さらに、開発した商品を料理に使い提供する「みのりキッチン」。2017年から取り組んできた事業は、少しずつ、でも着実に地域の「食」の循環として動いています。

白石の食の真ん中として頼れる存在に

みのりの事業は、白石市だけでなく、仙南地域においても大きな影響を与えています。地元農家との連携を強化することによる地域食材の活用や発信、そして食育イベントの開催を通じて、地域社会への深い貢献を果たしています。

ーー佐藤さんのUターンのきっかけの中で、食育の話題も出ていましたが、何か取り組まれていることはありますか?

佐藤:
最近では隣接する「こじゅうろうキッズランド」で開催している、食育のイベントにも関わるようになりました。ニンジン、ピーマン、カボチャを使って赤・緑・黄色の月見団子づくりをしたんですよ。

ーー素敵ですね。企画を考えるのは元々お好きなんですか?

佐藤:
そうですね。仙台のお店にいた時から、「料理を作るだけが調理師なのかな?」というモヤモヤがありました。より幅広い層に対して、食育でアプローチできることはないかと、ずっと思っていたんです。

とはいえ、食育のイベントは全くの未経験なので、全て手探りです。イベントをやった後に「もうちょっとこうすれば良かった」の繰り返しです。

食育とはいっても、堅苦しい感じじゃなく「料理って楽しいね」「楽しく食べる」を伝えられるよう、企画しています。

遠藤:月見団子の時は私も様子を見ていて、野菜の自然な色だけでお団子に色をつけていて、密かに感動しました。「これが自然の色なんだ」と知ってもらえるといいですよね。

ーー参加者の反応や反響はいかがでしたか?

佐藤:
子どもたちはお団子をこねるのが楽しかったみたいです。「3色できるけど、混ぜても作れるよ」「マーブル状も楽しそう」と、いろんな発見もあって。「おいしい、おいしい」と食べる姿がうれしかったですね。

ーーそれはうれしいですね。改めて、今後の展望はいかがでしょうか。

遠藤:
毎日同じことをしてると停滞してしまうので、変化し続ける。みのりのバリューにもあるように、何でも面白がってやる人じゃないと、いいものはできません。佐藤くんには、今後もより自由に、なにより面白がって、周りを巻き込んでいってもらえれば、と思います。

佐藤:みのりとしては白石の中心になって、地域の方から頼られる存在でありたいです。個人としては、食育の方に学生も巻き込みたいです。関わることで、食に関する仕事に就いてくれる人がいてくれたらいいなと思います。

「10年、20年、30年と、次世代の子どもたちが、『地元で働きたい、地元に戻りたい、地元を元気にしたい』と思える地域にしたい」と奮闘する一般社団法人みのり。
その挑戦と情熱は、若い世代の心も動かし、着実に白石市の未来を切り開いています。これからも、みのりの旅は続きます。

会社情報

一般社団法人みのり 
宮城県白石市福岡長袋中ノ在家前13-7
Tel: 0224-26-8107  
Fax:0224-26-8108

みのりキッチン
宮城県白石市福岡長袋字八斗蒔20-1
Tel: 0224-26-8121 
土日祝:11:00〜15:00(L.O.14:30)
平日:11:00~14:30(L.O.14:00)
木曜定休

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